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それから数日、教室でも室伏さんを何となく目で追ってしまった。彼女はクラスでは全然目立たない。音楽室にいるときとは、顔すら違って見えた。
「何見てんの?」
よく放課後に遊んでいる友美に話しかけられて、「うーん、室伏さん」と答えると驚かれた。
「何で? 仲よかったっけ。タイプ違うけど。何と言うか、あの子って地味じゃん」
「うん。何で地味なんだろって考えてた」
はぁ、と友美はあいまいなため息をついた。
今まで、教室でのクラスメイトたちに他の顔があるなんて思いもしなかった。派手な子は派手。地味な子は地味。室伏さんみたいな人にいたっては、おしゃれにも気を遣わずに青春楽しいのか、って疑問すら抱いていた。
だけどもしかしたら、それ以上に、打ち込めることが彼女たちにはあるのかもしれない。
それから室伏さんと教室で話すこと、チケットを返す機会もなく、演奏会の日がやって来てしまった。いつもと変わらない毎日を過ごしながら、少しだけざわざわしていた一週間だった。
私は、その日わざと寝坊をした。
本当のところ、目は覚めていたし、もう出ないと間に合わないって分かっていた。でも布団の中でずっとごろごろしている。だって、起きたら行かないといけない。音楽には興味がないのに。
あの二者面談の日、放課後のしんとした音楽室を思い出す。白黒写真のおじさんの何も考えていないような顔と、室伏さんの上気した顔が交互に浮かぶ。室伏さんが、あそこまで言うおじさんの曲。どんなものなんだろう。
聴くだけなら、いいじゃん。ただだし。チケット、無駄にしたら悪いし。
そう言い聞かせて、急いで着替えるとそのままチケットを握りしめて、玄関を出た。
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