2、神様女神様、やっぱりやります

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 放課後、私たちの道はきっちり分かれる。部活に向かう真面目な室伏さんたち。そしてカラオケにふらふら繰り出す私たち。このままでいいんだろうか。でも、今さら、違う道なんて進めない。  私は友美たちのあとを、何も考えずについて行く。すぐに、駅前のさびれたカラオケ屋について、個室に入った。毎日のようにお決まりの、私のルーティン。それで何かが積み重なっているわけではない。こうやって一年過ごして、また一年を過ごそうとしている。三年、こんな日を過ごしたら、もう卒業だ。そうしたらもう二度と高校生活は帰ってこない。  友美たちが新曲と定番の曲を交互にいれて、きんきんしたメロディが繰り返されていく。生の音には全然かなわないなと思った。これまで気にしていなかった、デジタルな音が、やけに耳障りに感じる。私が好きなのは、あの会場で感じたような、もっと振動が体にきて、揺れがあって、その時にしか出せない音だったんだ。 「ヤコ、入れないの?」  気づけば一時間近く立っていた。その間、何も歌わなかった。 「今日はいいやー」 「なんか最近ヤコ変だよ」  みんなが心配そうにこちらを見つめる。「さぁ、そうかな」言って、ごまかすようにジュースを飲んだ。この気持ちを、何って言ったらいいのか分からない。それに、私が今さら、曲を吹いてみたいなんて、言えるわけない。  選曲が途切れた画面では、新曲リリースのCMが流れはじめる。なんとなくみんなでそれを眺めていると、ぱんっと雰囲気が切り替わった。  映っているのは、本格的なジャズバンドの映像。クラリネット奏者が、ぶんぶん頭を振り回しながら、脈絡がないようなメロディを吹いていた。バックでは、ドラムとウッドベースがリズムを刻んでいる。室伏さんの姿が重なった。  すかしたような格好つけとは無縁の世界。全部をかけているのが伝わって来る。 「やっぱり、私やりたい」  つぶやくと、「え?」と友美たちが聞き返した。 「私、やっぱりやる」  今度は大きな声で言うと、私は鞄を持ってカラオケ店を飛び出していた。  頭の中では、またあの、成木先生とやらのおじさんの曲が鳴り響く。  もう、遅いかもしれない。だって高2だ。一年生じゃないし、中学のときに何もやってない。いや、音楽って小さいときからやらないとだめなのかも。私なんて無理かもしれない。それでもやりたい。
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