稲本団地

2/7
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
 とは言え、自宅の(いな)(もと)(だん)()からアフレコスタジオや事務所がある都内へ向かうには充分時間がかかってしまう。母でありマネージャーでもある(はる)()の協力が不可欠なのだが、現在彼女は父の(ひで)(あき)と共にハワイへ旅行中だ。  これは朱理から提案した両親へのプレゼントだった。  朱理たち家族はもともとこの稲本団地に住んでいたのだが、一昨年の十月から母と妹の()(おり)、そして叔父の()()()(ゆう)()と愛犬の(ぼん)(てん)(まる)と一緒に遙香の実家で生活していた。  別に両親の間にトラブルがあったわけではない、むしろトラブルがあったのは朱理の方だ。  朱理には母方の遺伝でいわゆる超能力がある、しかし(けん)(げん)するのが遅く自分自身でもその存在に気が付かなかった。  この異能の力を鬼多見家では(げん)(りき)と呼び、験力は魔物を引き付ける。朱理の験力に引き付けられた魔物のせいで大切な友達が傷つき、生命(いのち)を落とした。  験力は朱理だけではなく紫織にもある、しかも潜在的に妹の方がはるかに強い。このまま紫織が覚醒すれば朱理以上の大惨事を引き起こすかもしれない。  悠輝と遙香は今まで一度として帰らなかった祖父、()()()(ほう)(げん)の許で朱理と紫織を修行させる決断をした。     
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!