智羅教道場

4/4
前へ
/162ページ
次へ
「別に潰しまわっているわけじゃない、おれの目的はあくまで依頼主の家族を返してもらうことだ。  (はやし)(たすく)に会わせてくれ」  玄馬が眼を細める、蛇が獲物を見定めているようだ。 「本人の意思は無視か? 自ら望んで入信したにも関わらず」   そりゃそうだろ、心の隙を突いておまえが洗脳したんだから。  心の言葉をぶつけてやりたいが、それは最後の手段だ。これを言えば乱闘は避けられない。 「母親が心配している、一度返して欲しい」  悠輝は頭を下げた。正直、カルトに頭を下げるなどあり得ないが、(おん)便(びん)にことを進めるためには大人にならなければならない。  何を考えているか判らない表情で玄馬は見下ろしている。 「いいだろう、ご家族を悲しませるのは私も本意ではない」  玄馬が一人の信者に目配せすると、彼は素早く建物に入り新たな信者を連れて戻った。  写真で見た林輔で間違いない。 「輔、お母様に会ってきなさい」  無言で頷くと、輔は悠輝を残して歩き出した。 「素直に返してくれたことに感謝する」  悠輝は輔を追いかけた。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加