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「別に潰しまわっているわけじゃない、おれの目的はあくまで依頼主の家族を返してもらうことだ。
林輔に会わせてくれ」
玄馬が眼を細める、蛇が獲物を見定めているようだ。
「本人の意思は無視か? 自ら望んで入信したにも関わらず」
そりゃそうだろ、心の隙を突いておまえが洗脳したんだから。
心の言葉をぶつけてやりたいが、それは最後の手段だ。これを言えば乱闘は避けられない。
「母親が心配している、一度返して欲しい」
悠輝は頭を下げた。正直、カルトに頭を下げるなどあり得ないが、穏便にことを進めるためには大人にならなければならない。
何を考えているか判らない表情で玄馬は見下ろしている。
「いいだろう、ご家族を悲しませるのは私も本意ではない」
玄馬が一人の信者に目配せすると、彼は素早く建物に入り新たな信者を連れて戻った。
写真で見た林輔で間違いない。
「輔、お母様に会ってきなさい」
無言で頷くと、輔は悠輝を残して歩き出した。
「素直に返してくれたことに感謝する」
悠輝は輔を追いかけた。
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