新川土手

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新川土手

 朱理は買った食材を入れたデイパックを背負いTEMPTで(しん)(かわ)土手を疾走していた。  春先のこの時間帯、遊歩道になっているこの土手は滅多に人が通らない。さらに川の反対側には田畑が続いているため、前さえ注意していればスピードを出せる。  とは言え曇っているせいで大分暗くなっている、朱理はライトを付けて前方に意識を集中していた。  TEMPTは郡山で祖父に買ってもらったMTB(マウンテンバイク)だ。それで今、八千代を走っている。  朱理は感慨を覚えた。また八千代に戻ってきた、懐かしさと悲しみが詰まった故郷に。  幼馴染みの(りん)()(すみ)とは別の高校に進学することになったが、朱理が戻ってくると二人は今まで通りに接してくれた。  もう一人の幼馴染みである()()が、朱理に引き寄せられた魔物に殺されたにも関わらず、二人の変わらぬ友情が何よりも嬉しかった。  さすがに声優デビューしたことには「あんた、郡山に何しに行ったの?」と凜には呆れられ、「今のうちにサインもらっとこぅかなぁ~」と香澄にはからかわれた。     
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