生田緑地帯

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生田緑地帯

「はぁ……」  人っ子一人いない真夜中の帰り道、(しろ)(がね)()()は思わず溜息を吐いた。  大学と声優を両立させるのは難しい。  彼女は高校に入学すると同時に声優養成所にも通い始め、在学中にデビューを果たした。  デビューをしたといってもそれほど仕事があるわけではなかったので、声優を続けながら大学に進学することに決めた。  ところが幸運にも役が付き始め、今では常にアニメのレギュラー作品を三、四本は抱えている。  それ以外にもゲーム、アニメのゲスト出演はもちろん、イベント、ネット番組やラジオへの出演、そして雑誌の取材も受けなければならない。  正直、大学を中退か休学しようかと悩んだこともある。   でも、あと一年だけだし。  悩んでいるうちに三回生になってしまった、それなら最後までやり遂げよう。  明日も朝から大学のゼミで、午後からは収録が控えている。  美優は歩みを速めた。  寒い暗闇に自分の足音だけがやけに大きく聞こえる。  彼女の自宅は川崎市多摩区にある生田緑地の一角にあった。  最寄り駅の向ヶ丘遊園までは新宿から小田急線の快速急行で二十分程度だが、駅からまた二十分以上歩かなければならない。
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