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「キスするから目を閉じて」
少女は少年に向かって小悪魔のような笑みで言った。少年は学ランで少女はセーラ服を着ている。どちらもやっと入学当時に買った制服が体になじんできた、そんな年になっている。
「え?」
少年が驚くのも無理はない。一緒に帰ることでさえ、周りの目を気にして帰る彼らの間柄でこんな言葉が出るなんて。こんな言葉が出る原因として考えられるのは周りの友達からの影響か、それとも漫画の影響としか考えられない。
事実今少年は今顔を真っ赤にしてどぎまぎしている。一方少女のほうはというと、先ほどと変わらぬ笑みを浮かべ真っすぐに少年を見ている。あまりにも対照的だ。
「ほら、早く閉じてよ!」
少年をせかす彼女の声が部屋にこだまする。
少年は意を決して、ぎゅっと目を閉じる。どんどん彼女の息遣いが大きくなって聞こえてくる。そして、少年の唇に柔らかいものがあたる。思わず少年が目を開けると、少年と少女の唇の間には彼女の指が。そして、彼女の顔を見ると嬉しそうな顔をしている。
「ふふ、ドキドキした?」
彼女は今にも吹き出しそうな顔をしている。少年は少女にもてあそばれていた。少年ははじめは何が起こったのかわからないといった風であったが、だんだんと状況を飲み込み始めた。そして
「もういいよ」
と冷たく突き放したように言うと少年は立ち上がって部屋を出ていこうとした。彼女は驚いた。いつも優しい少年をちょっとしたお遊びでやったはずの軽はずみな言動で怒らせてしまったことを。慌てて立ち上がって彼を追いかけようとするがスカートを踏んで転んでしまった。しかし、彼は振り返らない。そのことが彼女の不安をさらに掻き立てた。
自然にぽろぽろと涙がこぼれてくる。その涙が少年の彼女に対する接し方に対してのものか自分がしてしまったことに対する後悔からの涙かはわからない。いくら後悔してもし足りない。だけど彼女は立って少年を追いかけなければこの関係が終わってしまうと感じた。彼女の涙のせいか少年の動きが止まった。彼女はその機会を逃すまいと懸命に立ち上がり、少年のものへ駆け寄った。
そこからは圧巻であった。少年は急に踵を返したかと思えば、駆け寄ってくる少女を抱き寄せて、そして優しくキスをした。彼女はあっけにとられ目を点にして何が起こっているかわからないといった風であった。
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