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それを聞いて俺は全身から力が抜けてめまいがして椅子に坐り込んだ。すべてお袋が知っていて、これを仕掛けていた? 俺はお袋の手の中で踊らされていただけだったのか?
結衣もそれを承知していた? 二人で俺を騙していた? 嫁と姑の不仲は世の常だが、嫁姑連合になるともう太刀打ちできないことが分かった。恐るべきは、お袋と地味子!
「真一、あなたのことを思ってしたことです。こんな素敵な結衣さんと結婚できて嬉しくないの?」
「嬉しいさ、ただ、驚いているだけだ。腰が抜けた。しばらくはこの衝撃から立ち直れそうにない」
「そんなこと言ってないで、二人であの噂をぶち壊すんじゃないの、頑張ってきて」
そこまで言われて気落ちするやら、頑張らないといけないと思うやらで、気持ちの整理がつかないまま式に臨んだ。
でも式が進むにつれて気持ちが落ち着いてきて、綺麗になった結衣さんを見ていると嬉しさがこみあげてきた。キスのために、ベールをあげてみた結衣さんは本当に眩しくて綺麗だった。
結衣いや、あの絵里香と結婚できたんだ。お袋ありがとう! お袋は、老舗の女将さんとして、俺の母親として、老舗の跡取りに本人が気に入ったよい嫁を見つけるのに一生懸命だったんだ。
披露宴には同業関係者を多く呼んでいた。まあ、俺の結婚式の披露宴は同業者への挨拶代わりだ。俺の主賓は菓子店組合の理事長、新婦側の主賓は彼女の伯父でもある菓子店の社長だ。
二人が入場していくと、驚きの声が上がる。皆が想像していた以上に新婦が綺麗だったからだろう。ざまーみろー! 恐れ入ったか! 皆の者、頭が高い! 俺は心の中でそう叫んでいた。
結衣さんもきっとそう思っていたのだろう。二人は顔を見合わせると思わず笑いがこみあげる。中央の席についても、どよめきがなかなか収まらない。
司会の隆一の開宴挨拶でようやく静かになってきた。媒酌人の吉本さんの新郎新婦の紹介の後、主賓の挨拶、乾杯、ウエディングケーキ入刀など型通りの披露宴が進んでいく。隆一の進行はうまい。
隆一が自分で友人代表の挨拶をすることを紹介して挨拶を始めた。2日前の事前打合であまり余計なことを話すなと釘をさしておいたが余計なことを言わないか心配だった。
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