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昼休みに社員食堂で食事をしていると隣の席に山本隆一が座った。隆一は同郷で高校が同じだった。また、上京して入った大学も同じだった。
彼の実家は老舗の菓子屋で故郷では名が知られていて、駅やデパートにも店を出している。郊外にお菓子の工場があると言っていた。
そこの御曹司でいずれは菓子店を継ぐことになっていると言う。今は武者修行のために俺と同じ食品会社に勤めている。
高校の時はクラブが同じだった。大学でも学内で会えば立ち話をする仲だった。偶然同じ会社に入ったので同期になってそれからより親しくなった。
彼はいずれこの会社を辞めることになると思っているので始めから俺と張り合ったりしなかった。そのいずれ辞めることは会社には秘密にしている。
彼は商品企画部にいるが、仕事もできるし、センスも良い。俺の良き相談相手になってくれている。
「どうだ、仕事は?」
「まあ、なんとか目途が付いてきてもう一息のところまできた。いつも相談にのってもらって感謝している」
「気にするな、会社ではお互いを利用して助け合っていければいいじゃないか」
「頼りにしている。俺はおまえと違って、ここしか居場所がないと思っている」
「浮かない顔をしているが、仕事は順調なんだろう」
「ああ、プライベートなことでの悩みだ」
「そういえば最近引越しをしたとか聞いたけど」
「親父のマンションに引っ越したんだ」
「いいじゃないか、家賃は只だろう」
「そうでもないからどうしたらよいか考えていた。今日の帰りに一杯やりながら相談にのってくれないか?」
「特に予定がないからかまわないけど。場所は駅前のビアホールに7時半でどうだ。その時に話を聞こう。もちろん割り勘でいいよ」
「そうか、飲むのは久しぶりだな、じゃあ頼む」
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