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「だーから、何でオレなワケ?」
相良 和希が数歩遅れて背後を歩きながらぼやいた。
「和希くんにしか相談できないんだもん…」
「満琉にしとけ、満琉にっ」
「男の人の意見が聞きたいの」
葵の職場である図書館までの道、和希を伴い歩くのも当たり前になっている。
「…んで、何だって?」
仕方無さそうに和希が聞き返してくる。
毎朝30分かけてセットすると言うワックスで遊ばせた髪に、穴の空いたジーンズ…見た目は完全にチャラい。
自称、得意はナンパらしい。
「要くんね、ほら…架南の他に付き合った人とかいるのかな?ってね…」
「そりゃー、いるだろ」
「…え?!!」
あんまりサラッと和希が答えるので、葵は道行く人が振り返るくらいの声を上げた。
「いるの?!!」
その声に驚きながら和希が歩調を早め、葵の隣に並んだ。
「いるって聞いたワケじゃねーけど、葵は怪しいって思ったんだろ?何でだよ」
「何でって、ブ…」
葵は言いかけて止める。
弟のような存在の和希だが、さすがに全ては語れない。
「あ、えっと、なんか色々手馴れてるから…昨日の夜に『そう言う人いたの?』って聞いたら、はぐらかされて」
「うっわ…えっろ!手馴れてるとか…えー」
和希が口元に手を当て、大袈裟に声を上げた。
「手馴れてるって、そう言うんじゃなくて」
(そう言うのだけど…)
顔が熱くなるのを感じながら、葵は歩調を早める。
「でも、まー、はぐらかしたんなら黒だな。真っ黒だ」
「…やっぱり?」
葵は足を止め、和希を振り返った。
架南の死後、要には永い永い時間があった。
周りの人間が自分を残し死んでいく。
変わらぬ姿で自分だけが取り残されていくことが、どれだけ孤独か…………
恋人がいたって不思議はない。
頭ではわかるのだけれど、心がついていかない。
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