いつもの三時

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いつもの三時

 「大地! くれ!」  県大会ベスト4を掛けた試合の終了間際。 カウンターから一気にピッチを駆け上がる僕に、数メートル先の健太がボールを要求する。 しかし健太にはディフェンスが二人付いて、とてもパスを出せる状況じゃない。 体力の限界も近く、0対0の接戦で僕はかなり疲弊していた。 だがこんな状況にも関わらず、僕の頭だけは冷静だった。  周りがいつもよりもよく見える。  右斜め後ろからチームメイトが追いかけてくる。  すぐ横には今にもボールを奪いに来そうな相手選手。  ベンチからはコーチが大声で指示を出し、ベンチメンバーは神様にでもお願いするように、不安そうな表情を浮かべていた。  タイミングを計り、僕のボールを奪いにきた相手選手を交わす。 足元のボールはいつもより僕の足にフィットし、今ならどんな細く狭い所でも精密にパスを通せそうだ。 ハーフラインを超え、相手選手が一瞬だけ僕から目を離す。 その瞬間を狙っていたかのように、一気に加速する健太。 僕たちの間に特別な合図があった訳ではないが、僕の足から離れたそのボールは、相手のディフェンスの間を通り抜け、健太の足元にしっかりと収まる。 絶好の位置でボールを持った健太はご自慢のシュート力でそのままゴールネットを揺らす。  湧き上がる歓声で空気が揺れている。 僕の鼓膜を揺らし、それを頭が理解するのには少し時間が掛かった。  満面の笑みを浮かべ僕にハイタッチを求める彼は、あの頃と何も変わっていなかった。
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