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……やだあ、アリスが好きなの? あの、フシギのくにの? リョウタは男子だよ?
へんだよお、女の子みたあい。あたし、リョウタってもっとカッコイイ、シュミ
持ってるんだって思ってたけど、なんか、カッコわるーい、あはははは。……
「クソっ、嫌な夢みた」
晴れた午後の土手で、僕は苦い夢から目が覚めた。
目の前には、豊須川が心地よい音とともに流れている。
平日の晴れた午後、教科書の入った鞄を放って、制服のまま寝っ転がっていると、なにかと「危険」ではある。
このエリアには、サボり生徒を高校に通報するオバチャンがいるから。
でも、今の僕にはどうでもいいことだった。
「学校終わる時間までなにしていようか……」
「ぼくを助けてください」
空耳みたいに、なにか聞こえた。
僕の隣に、コドモがいた。
いつの間にか、いた。
しかも、ウサギの耳の被り物をつけて。
「……だれだよ、かんべんしてくれよ、迷子? 迷子なの?」
ウサギのコドモはじっと、僕を見ている。
やめてくれ。こういうの本当にダメ。
「ぼく、このままだとトランプの女王のデザートになっちゃうの」
「あのね、お母さんはどこ? はぐれたんなら警察……には行けねぇ……こっちが補導されるわ……」
非常事態である。仮に母親を見つけたところで僕が誘拐犯にされる可能性もある。
「とりあえず、名前言える? 君の名前。小学3年生くらいかな」
僕は優しく聞いた。
「アルフリアド・マニエトス・クロニス」
「どこの国の人ですか……いつもなんて呼ばれているの?」
「ビョルン」
「本名に一ミリもカスッてないだろ……」
「ぼく、トランプの女王の作るデザートの、バターなの。とかされて、ケーキになって、女王に食べられちゃうの。助けて、アリス」
ビョルンと名乗ったコドモは、僕の手を握りながら言った。
風が土手をなぞっていく。
「アリスってなんだよ……」
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