アリスだった僕に

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すると、向こう側の八条橋のほうから、ドンチャカドンチャカ音が聞こえてきた。 「ビョルン、バターのビョルンはどこにいる! バターがなけりゃケーキが焼けぬ。ケーキ食べなきゃ女王は、怒ってお城を壊しちゃう! 家来はみんな死ぬわけだ! ビョルン、バターのビョルンはどこにいる!」 橋はずっと向こうなのに、すぐ近くまで迫ってきているように、はっきり声が聞こえる。 「なんだあれ……、チンドン屋のパレードか?」 僕が立ち上がると、ビョルンは僕の足にしがみついて必死に隠れようとした。 奇怪な行列はゆっくりと、太鼓や笛をでたらめに叩いたり吹いたりしながら、僕たちのほうへと向かってくる。 「まいったな、隠れるところがない」 僕は辺りを見回して、大きな木が立っているのを見つけた。 「ビョルン。木登りできるか?」 震えているビョルンを立たせて、僕は両手でビョルンの頬を包んだ。 「がんばってみる」 「よし、行くぞ」 太い枝が広がっていて、ありがたいことにワサワサと葉が茂っていたので、僕たちはなんとか身を隠しながら行列を見下ろせるところまで登ることができた。 二人で枝に並んで座っても、余裕がある。 「下を見るなよ」 僕が言うと、ビョルンは首を強く振って応えた。 たぶん今、相当怖いのだと思う。 行列は耳障りな音に繰り返し同じ言葉を乗せながら、僕たちのいる木の近くを通り過ぎて行った。 顔から手足が出ている奴、『不思議の国のアリス』と同じトランプの兵たち、大きな毛玉に目がついていて、ボールみたいに飛び跳ねながらゲラゲラ笑っている気持ち悪いのもいた。 「もう大丈夫だよね?」  ビョルンは土手に下りたくて仕方ない、という感じで僕に言った。 「いや、たぶんあいつらから、僕たちのことが見えていたと思う。わざと通過して行ったのさ」 「なんで分かるの?」 「行列の先頭にいた、ボスみたいなやつがこっちを見たんだよ」 「あいつはデザートを作る係なんだ。こわいよう」  僕はビョルンの頭を撫でながら、大丈夫だよと笑ってみせたが、危険度は一気に高まってしまった。 「枝の上っつったら、『不思議の国』ならチェシャ猫か。都合よく出てきてくれないかな」
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