アリスだった僕に

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「変なシャツ着ているって思ったけどウサギだからな、やっぱりな……」  すると猫が、 「おいらがビョルンをかくまっていられる時間は、あと一時間だ。それまでになんとかしな」  と言って、ぐわああっと口を開けると、ビョルンを吸い込んでしまった。  それから猫は木のてっぺんまで登った。  そして、ペンが一本、落ちてきた。  僕の指はノートを開こうとするが、傷ついた記憶のかさぶたを剥がすのは辛い。  クラスの女子は、休み時間に僕からノートを取り上げて、大声で読んだ、僕は恥ずかしくて泣いた。  そいつは先生からめちゃくちゃ怒られたし、謝ってきたけど、しばらくは「アリス男子」と呼ばれて肩身が狭くてどうしようもなかった。 「なんで今さら……」  ようやくノートの1ページ目に触れた。  途端に、あの頃の僕が心の内側でむくりと、起き上がった。  ガラクタの国で、「ほんとうのたからもの」を探す僕は、白ウサギに助けられながら冒険を続け、忍び込んだ女王の城を脱出する計画を立てる。  物語はここで止まっていた。 「ビョルンを助けるにはどうしたらいい」  僕は、ガラクタの国のアリスと主人公の「僕」に問うた。 「時間がないんだ」  ペンを握りしめると、ふと、ビョルンが溶かされてしまうケーキのことを考えた。 「……そうか。女王の城から脱出すればいいんだよな」  僕はノートに物語の続きを書き殴っていった。 白ウサギが女王の話相手になっている間に、「僕」はチェシャ猫から手に入れたブランデーを持って台所に行く。 デザート係が城の畑から果物を取ってくる間に、僕はケーキの生地にブランデーをしこたま混ぜる。 それから、ヤギのバターと小麦粉を追加して、見た目を変わらなくしておく。 何も知らないデザート係は、ケーキを焼いて(魔法のオーブンだから、すぐ焼ける)女王のところへ持って行き、食い意地のはった女王は、白ウサギに一口もすすめず全部平らげてしまう。 ケーキで酔った女王は、いびきをかいて玉座で寝てしまったので、ウサギと僕は椅子の下の秘密の地下階段から水路をつたい、城の外へ脱出する。  水路の暗闇の中で、女王が隠し持っていた『世界を独り占めできるルビー』を見つけ、それを握りしめてようやく地上へと逃れる。  白ウサギは「この世界はあなたのものだ」と言い残し、チェシャ猫とともに姿を消した。
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