アリスだった僕に

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「これでどうだ! 書き終わったぞ!」  すると、猫が再び木の幹に爪を立てながら下りてきた。 「ギリギリだったぜ。ほら、もうそこまで来ている」  物語を書くのに夢中だった僕は、さっきの行列が木をぐるりと囲んでいることに気がつかなかった。 「うわあ!」 「あんたを襲うために、楽器を鳴らさずに来たんだ。おっと、ビョルンを出してやるか」  猫は歯をむき出しにして口を開け、ビョルンを吐き出した。  ビョルンは僕の隣にぼん、と座るなり、僕の腕を強く掴んだ。 「おい、まだあいつらがいるのに」 「見ていな。あいつらこそ溶かしバターだぜ」  行列の奇異なやつらは、力を失って楽器を次々地面に落とした。 「びょ……るん……溶かさないと……、女王さまあ……がお怒りだ……」  うめき声をあげながら、次々に豊須川へ列をなして沈んでゆく。  川が気味の悪い色に変化している。 「溶けちゃってるの? ぼくが溶けなくていいの?」  ビョルンは川を見つめながらつぶやいた。 「そうだよ」  僕はペンとノートを猫に向かって投げた。  猫はそれらをいっぺんに食って、飲み込んだ。 「ビョルン、帰るかどうするか、決めな」  猫はひげ袋を膨らませながら言った。 「アリスはもう、大丈夫だ。女王もビョルンをバターにしようなんて思わないさ。いつでもアリスが助けてくれるんだから」  それを聞いたビョルンは、首を小さく横に振って言った。 「ぼくは、アリスの中に帰る」 「そうか。決めたんだな」  猫は目を細めた。 「アリス、ぼくを助けてくれてありがとう。ぼくは、ガラクタの国の白ウサギなんだ。ガラクタの国に帰るのもいいけど、ぼくはアリスとずっと一緒にいたいんだ」  ビョルンはそういうと、ウサギの被り物を頭から外した。 「さよなら。でも、さよならじゃないよ」  その瞬間、ビョルンはバターみたいに溶けて僕を包み込んだ。  木の枝の上から、僕は態勢を崩して落下した。 「もう助けてやんねぇよ、ひひひっ」  猫の声が鐘の音のように響く。
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