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そして、なんの前触れもなく、わたしの頭をぽんぽんぽん、と軽く3回叩いた。
至近距離での笑顔。満面。
そしてこの距離感。
パーソナルスペースへの忖度の無い侵犯。
ずるい。
最初にはじけた感情はそれだった。
「ワンピは派手な柄になっちゃってるけど、髪は乾いてるね。良かった。ふん……いい匂い。シャンプーどこの?」
こいつは、いつも学校で友達の前で繰り出す満面の笑顔を、わたしだけに向けてくれた。
一瞬の間を置いて(自分ではそうしたつもりで)わたしはわざと、なるべく冷たく言葉であしらう。
「あ……んたの家の方向のバス、ここには……来ないよ。あと、シャンプーはアナスイ」。
にやけた表情がバレないように、うつむきながら、なんとか質問を冷たく悪態で返そうとしたが、事実を普通のトーンで絞り出すのが精いっぱいだった。
「兄ちゃんが、バイト帰りに車で拾ってくれるんだ。それまでのアマヤドリに、と思って。お前が見えたから」
あ。お兄さんのこと「兄ちゃん」て呼ぶんだ。かわいいな。
そんなことを思っていたら、突然だった。
「ココントーザイ、好きなもの」
突然、なにを言い出すんだ。こいつ。
「ヒマじゃん。ただ待ってるの。話をしよう。じゃあこっちから。『柴犬の子犬』」
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