兄を待ちながら

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ま、まあ可愛いな。わたしも好きだし、柴犬。黒いやつが好き。どうでもいいか。 「……『ミヒャエル・ハネケ』の映画」 古今東西が終わってしまうのは惜しいし、楽しそうだから。それだけの理由でノってやった。 「え。誰それ。有名な人?」 「有名じゃないよ。でもたぶん間違いなく世界で一番クールな映画監督。パルムドールを片手間で獲る天才」 「「たぶん」なのに「間違いない」んだ。へー、おもしろ案件じゃん」 こいつ、スマホを取り出してポチポチと「ミヒャエル・ハネケ」を調べているみたいだ。 「あ、『ピアニスト』観たことあるよ。ラストの女優さんの演技、すごいよね」 話、ちゃんと聴いてくれてる。楽しい。 うんうん、と頷きながら心の中の空っぽだった部分に、ちょっとずつ必要ななにかが満たされていくような感覚に酔う。 「……じゃこっちの番ね。『夕暮れのグランドの芝生』ッ。これはガチ」 好きな物、子供かよ!もう、こいつ!いちいちかわいいな! 「『モンティパイソン』のホーリーグレイル」 ちょっと意地わるく言ってみた。 これは知らないだろ、って口調で。 眼鏡も人差し指で抑えながらなるべく冷酷な言い方で。     
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