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唯川は至って真面目な顔をしていた。
自殺? 何を言っているんだこいつは。冗談が冗談になっていないぞ、そんなこと軽々しく言っていいような言葉じゃない。
僕はそう言おうとした。
しかし言えなかった。言葉が空気に呑まれて、決して音へと変わることはなかったのだ。
それはひとえに、僕も気づいていたからだろう。唯川凪咲は、真剣なのだ。少なくとも、ふざけてなどはいない。
「なんだよ、それ」
「自殺するのよ、だから四日後に。これから言う三人の中の、誰かがね」
「いや、そういうんじゃなくて」
「信じられない? それとも信じたくない? それなら信じなくたっていいわ。だってこれは、ただの"ゲーム"だもの」
唯川の昏い瞳に、僕は吸い込まれてしまいそうだった。僕は限りなく深い闇を、そこに見た。唯川の言葉が脳裏で渦を巻いて正常な思考力を奪い取っていく。僕はどこか、自分がおかしくなっていると思った。
この女は本当に普通の人間なのか?
そんな馬鹿馬鹿しい疑問すら浮かんできたほどだった。
「誰が死のうが関係ない。ゲームとして勝敗がつけられれば、それでわたしはいいの」
「待てよ。お前、未来が見えるって言うのか?」
「……さあね、でも四日後にクラスメイトが死ぬのは本当よ?」
「そりゃあお前、冗談にも程があるってもんだぜ……。いくら変なやつ揃いの一年四組をまとめている僕だからといっても、限度というものはあるんだぞ」
「ああそう、興味無いわ」
唯川はようやく立ち上がって、僕の方へ向かってきた。意味もなく僕のまわりを三周ぐるぐると回って、近くの席に座る。
「わたしが興味あるのはね、学級委員さん。あなたの、その願望だけなの」
「僕の願望?」
「ええ、終末という言葉には、心惹かれるものがあるわね」
唯川はにやりと笑って、窓の外の空を見上げた。
蒼い、それでいて何もない空だ。雲も、星も。
「蒼空って面白くないでしょう? だって虚しいだけじゃない」
「そうか? そもそも、蒼空を面白い面白くないで捉えること自体おかしいと思うが」
「あなたの意見なんて訊いてないわ。わたしはただ、知りたいのよ」
「何を」
びゅうと、窓の外で風が木の葉を揺らした。
「終末が、虚空に何色を付け足してくれるのか」
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