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二つの車輪がきこきこと錆びた音を立てる。
やれ、やっぱり自転車通学はダメだとか、やっぱり中古の自転車なんて買うべきじゃなかったとか、そんなことを思いながら僕は必死で車輪を回していた。
勾配の緩い坂を下ると、ずっと遠くにだが微かに学校が見えてくる。僕は腕時計をちらりと見て、それから足に力を込めた。
遅刻ギリギリ、というわけでもないが、今日は特別急ぎたい用事があったのだ。
唯川凪咲の出題したクイズ。
僕はそれを受けることにした。もちろん、世界を救うためでも、自殺志願者を突き止めて制止したいからでもない。
学級委員として、唯川との関係を深めておこうと思ったからだ。
あいつにはおそらく、クラスに友達と呼べる存在は一人もいない。いつも孤独に、窓の外を見ている姿がふと、脳裏に浮かんだ。
くだらないクイズに答えるだけでアイツをクラスの輪の中に入れてやれるのなら、それで十分だろう。あとは暇つぶし程度に考えておけばいい。
僕は駐輪場に自転車を止め、鞄を背負い直して校内に入った。
下駄箱で靴を脱いでいると、ふと肩に重みが加わった。
「よっ、学級委員さんよ」
振り返る。阿呆面の高身長高校生が、僕を見下ろしていた。
「なんだ、藤見か」
「今朝は早いな、お前いつも遅刻ギリギリだろ?」
「んなことねーよ」
藤見大雅。バスケットボール部所属の一年生で、クラスメイト。こいつもなかなか勉強が苦手なようで、僕と張り合えるくらいであることを明記しておこう。一応こいつは僕の友達なんだが、まあうざったい奴でもある。
「今日一時間目なんだったっけ?」
「僕に聞くなよ、数学とか?」
藤見はうへぇという顔をした。黙って笑ってればイケメンなんだからそうしとけよっつーの。僕は睨みつけた。
「なんだよ委員長。もしかして不機嫌か?」
「だから委員長って呼ぶなっつーの。っつか学級委員さんか委員長か、せめて呼び方は統一しておけよ」
僕の名前、もしくは名字を呼ぶ人間はクラスにもほとんどいない。姉でさえなんだか最近朝「おはよう委員長」とか言い始めたし……。昔みたいに「りっくん」って呼ばれる方がまだマシなんだけどなあ。
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