12人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「どいて、どいてくれ」
音だけが耳に届く。人混みをかき分けても、思うように前に進めない。
叫び声、笑い声、机が倒れるような音、悲鳴。何が起こってるんだ?
その瞬間、僕と四組を囲む人だかりの中から、わっと声が上がった。群衆が少し、後退する。僕はそれを機にするりと前進した。だがまだ教室の中は見えない。
「おい委員長!」
背後から藤見の声。アイツは背が高いから中が見えるのだろう、目を見開いて、酷く焦ったような顔をしている。いったいなんなんだよ、もう!
「なんだよ、藤見!」
「こりゃまずいんじゃねーか……。急いで止めねえと!」
「何が起きてるんだよ!」
僕が叫ぶ。藤見は目を覆うように、腕を自分の目の前で交差させた。
「やべぇよ……これ」
「あー、もう、なんなんだよ! だから僕が今、学級委員として事態の収束を図ってるんだろうが!」
叫ぶ。人だかりはもう、一歩も動かなくなっていた。なんだ?
やけに重たい沈黙が、鼓膜をくすぐった。僕は先を急ぐ。
制服がくしゃくしゃになりながらも、どうにか教室内に入ることができた。ボタンを止める暇もなく、室内へ目を向ける。そして僕は、文字通り絶句した。
なんなんだよ、これ?
最初のコメントを投稿しよう!