3.日常に潜む異変

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「委員長、避けて!」  背後から響いた唯川の声に反応する暇もなく、僕は板崎に殴られ、吹き飛ばされる。  頬に強烈な痛みが走った。僕は顔面を激しく歪める。同時に血を吐き出した。 「板崎! てめえ!」  藤見の声だ。僕は右手を振り下ろして、藤見を制止する。 「近寄んなっつってんだろぉが、ばぁか!」  僕は口内からの出血の気持ち悪さに耐え、よろよろと立ち上がった。意識を正常に戻し、視界の照準を合わせる。僕のリーチからはだいぶ遠いところで、板崎は目から大粒の涙を流しながら、口元に奇妙な微笑を浮かべていた。 「やめろよ、もう……」  僕はふらつきながら板崎に歩み寄る。板崎はぴくっと震えた。 「近寄んなぁ!」  板崎はもう一度僕を殴りつけた。吹き飛ばされないように踏ん張ると、今度は強烈なキックが腰に命中した。僕は反吐を吐き出した。 「かはっ……!」  次は鳩尾を殴られる。意識が朦朧とした。僕はそれでも、板崎の目を見る。顔面を殴られた。痛い……痛すぎる。 「見てらんねえや……。許せよ、委員長!」  藤見が叫んで、走り出す。 「藤見くん!」  唯川の制止なんか聞きもせずに、藤見が板崎を思いっきり殴り飛ばした。壁に強く叩きつけられた板崎は、すぐに意識を失って、その場に倒れた。 「平気か、学級委員さんよ」 「んなわけあるか、死にそうだよ……」  僕は藤見に肩を貸してもらって、保健室に連れていかれた。教室にはもうすぐに教師が到着するだろう、あちらは唯川にでも任せておけばいい。だが……。 「板崎は……どうなるんだろうな」  廊下を歩いている最中、僕が藤見に尋ねる。藤見は顔を歪めた。 「当たり前だろ、逮捕だ」 「そうか……」  僕はため息を吐き出した。僕に責任はない……はずなんだけど。  しかし……。  僕は同時に眉をひそめ、唯川の言葉を思い出した。  板崎魁人。彼は奇しくも、唯川が言った自殺候補者のうちの一人だったのだ。僕は朦朧とする意識の中で考えた。  自殺するのは、板崎なのだろうか。  秋風が、思考を強く揺さぶった。
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