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「そこでいじめられて、か……」
板崎としても、もう限界だったのだろう。僕は胸がちくりと痛んだ。学級委員として、もっとしっかりしていればこんなことにはならなかったのだろうか。いや……。
「今朝学校に行ったら、赤上くんたちに突然襲われてさ。クラスで堂々とだよ? 有り得る? それで、しばらく我慢してたみたいなんだけど、突然。突然目の色が変わって、鞄からナイフをね」
「なるほどな」
僕は頷く。その後、あの騒ぎが起こったということか。話が区切れたところで、僕はあることを訊こうとした。だが、ちょうどその時チャイムが鳴り始めた。
「やば、そろそろ行かないと。お大事にね、学級委員さん」
葉宮が急いで立ち上がる。僕はそれを、遠慮がちに呼び止めた。葉宮に訊きたいこと、それは……。
「えっとさ、ひとつ聞いていいか?」
「……何?」
葉宮が振り向く。その純真で綺麗な瞳に、僕はたじろいだ。
「虐待、今は大丈夫なんだよな」
予想通り、葉宮の表情がくもる。一筋の影が差し込んで、動かなくなる。僕はそれを見逃さなかった。
「……うん、多分ね」
「……そうか、なら良かった」
僕はおそらく微笑を浮かべているであろう葉宮の方を、あえて見なかった。そんな偽物の笑顔は見たくない。僕が、僕があの時好きだったのは――。
振り返りもしなかったけど、音で分かった。そのまま葉宮は駆けて行ったのだろう、チャイムは鳴り終わっていた。
葉宮は僕に嘘をついた。根拠はないけど、きっとそうに違いない。
僕が再びカーテンを閉めると、保健室の中には再び静寂が訪れる。ふと、窓の外の空を見上げながら考えた。
虐待、それはあるいは、自殺の要因になるのかもしれない。
そう、葉宮涼香――彼女もまた、自殺候補者の一人だったのだ。
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