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昨日からまた一段と冷え込んだ気がする。
人通りの絶えた廊下は、昼間よりも深い冷気を帯び始めていた。
僕は寒さに歯をかちかちと鳴らしながら、一年四組の教室へ向かって歩いていた。唯川凪咲がそこにいるのではないかと、微かな期待を胸に抱いて。
いくつか唯川に言っておきたいことがあった。もちろん例のクイズについて、あとは今朝起こった板崎の事件について。
角を曲がっていよいよ一年四組へと続く廊下に差し向かったところで、小太りの中年男性が僕の行く手を阻んだ。
「ああ、ダメだよ君。ここからは危ないから」
教師だ。何の教科の人だったかは覚えていないが。数学? いや数学の先生は葉宮がイケメンだと言っていたし、こんな冴えないオッサンではないだろう。では英語か。ああそうだ、藤見がよくモノマネをしていた。
……どうでもいい。ともかくここは通れないらしい。
僕は、はあ、すみませんと頭を下げて引き返す。あの先生は、ずっとあそこで見張っているのだろうか。きっとそうなのだろう、あんな事件のあとだからな。
僕は廊下の途中で、ふと首を捻った。
では唯川凪咲はもう帰った?
なんとなくそうではないような気がしていた。彼女はいつだって夕闇の中に溶け込んでいる、それでいて斜陽に包み込まれながら、風に抱かれているのだ。そうでなくてはならないような気がした。僕はふと、窓の外を見る。
中庭の隅のベンチに、座っている生徒がいた。
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