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「言っておくけれど、今のはあなたが勝手に言っただけだから。分かってるわね? さっきの約束は守れないわよ、学級委員さん」
「なんだとこのっ」
「終末もの、というやつかしら」
僕の怒りの一声を完全に無視して、唯川は言った。「当たり前じゃない、あなた馬鹿なの?」という顔をしていた。
「世界が滅亡の危機に瀕し、それを主人公が救う。そういうストーリーよね?」
「……悪いか」
なんとなく気恥ずかしくて、僕は唯川から目を逸らす。
「いいえ、いいんじゃないかしら。わたしもそういう話、好きよ」
「ほんとか!」
「あなたの小説は嫌いだけれど」
僕は大きく舌打ちをした。なんちゅう女だこのアマ!
「世界を救ってみたかった、と言ったわね。なるほどそれで、こんな妄想を……」
唯川は僕に睨みつけられても全く動じず、むしろ平然と僕の瞳を見つめ返してきた。この世の全てを知っているかのような、不思議と心の内が見透かされているような錯覚を覚える深い黒の瞳だった。その視線から僕は逃げるように視線を窓の外へ向ける。
「なんだよ、それがどうかしたのかよ……」
「いえ、面白いと思ってね」
「面白い? なんだお前、まだ僕の"昔の"夢を馬鹿にするのか?」
「いいえ、そういうことじゃないわ」
僕はそんな彼女の姿に、思わず息を呑んだ。驚きで目が見開かれる感覚。そして――美しさに心が震えるような、そんな感覚。
唯川凪咲は、僕が今まで六ヶ月間クラスで見てきた中で初めて、今くすりと笑ったのだ。
「興味を惹かれたのよ、このわたしが」
目を逸らした先で待ち構えていた斜陽が、窓を突き破って、僕の眼球へ侵入する。
今なら分かる。あの時夕焼けがやけに目にしみたのは、きっと。
「ねえ……世界、救ってみない?」
唯川凪咲が、そこにいたからなのだ。
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