秘密への招待状

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「『早乙女愛香(さおとめあいか)シークレット・ライブチケット抽選会』当選券……在中?」  届いた薄いピンクの封筒を前に、俺は固まった。 「貴大(たかひろ)、片付かないから、早く降りて来なさい!」  階下から母の声が呼ぶ。 「晩ごはん、食べるんでしょ?」  晩ごはん……? ああ、晩ごはん――もう、そんな時間か。  壁の時計を見てハッとする。  高校から帰って、いつものように机に鞄を放り出しかけて、見慣れないピンクの物体に気付いた。手に取って……いつの間にか30分は呆けていたらしい。 「貴大!」  トントンと、怒りの気配を滲ませた足音が近づいて来たかと思うと――。 「あんた、返事くらいしたらどうなのっ?! って、何、まだ着替えてないの?」  呆れ声が、バーンと無遠慮に開け放たれたドアの向こうから飛んできた。  我に返ると、確かに制服の上のダッフルコートすら脱いでいない。 「母さん、これ……?」  手にした封筒を見せる。ああ、と視線が手元を捉えた。 「郵便受けに入ってたわよ。何か当たったの?」 「あっ、うん」 「そ。ほら、晩ごはんにするから。早く着替えて、降りてらっしゃい」 「うん……」  歯切れの悪い返事を受け流し、母の姿は既に廊下に消えていた。 「……夢、じゃないよな?」  ダッフルコートとブレザーだけ脱ぎながら、ベッド側の壁に貼った『早乙女愛香』こと『らぶたん』の等身大ポスターを見上げる。  何を隠そう、俺は彼女の熱いファンである。彼女は国民的ガールズアイドルグループ『黄泉平坂(よもつひらさか)43(フォーティースリー)』のレギュラーメンバー『チーム・ナギ』の一員だ。  もう少し説明すると、『黄泉平坂43』には上位22人のレギュラー『チーム・イザナギ(通称ナギ)』と、下位21人の研修生『チーム・イザナミ(通称ナミ)』に分かれている。  春と秋、毎年2回の総選挙で、ナギの下位7人とナミの上位7人が入れ替わるシステムだ。押しメンを持つファンに取っては、一大イベントである。  なお、ナギのトップは『女神』と呼ばれ、ライブもジャケ写も常にセンター、グループの顔だ。  俺の『らぶたん』は、2年前に新規加入した3期生ながら、キュートな笑顔と少し抜けてる天然キャラで、メキメキとファンを増やし、安定の中間クラス『ミドル7』が定位置になっている。
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