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「おい、これはなんだ」と彼はエルフをにらんだ。窓ガラスの蝿に視線を移したエルフは、そのまま何も言わない。鏡に映る自分を見ているように、彼女は蝿をじっと見つめている。いつのまにか、カエルが彼の方のベッドの下に来ている。 彼はカエルの黒いイボを一瞥したあと、エルフと蝿を見遣った。月光が曇った窓ガラスに差し込んで、光が荒くなる。それに照らされる蝿と、それを見つめるエルフの横顔。ほう、やはり綺麗だな、と彼は何度目か分からないため息をついた。しかし、箱の中には蝿の死骸。 どこからともなく、ごーんごーんと0時を告げる鐘の音が鳴った。その音に驚いた蝿は再び部屋を旋回し始めた。蝿を見つめていたエルフは、あら、と口元を歪める。そのまま彼の瞳を直視して、「あなたって悪い人」と微笑んだ。 彼はどうすればいいのか分からず、蝿の軌道を眺めていた。丘陵からゴブリンの甲高い笑い声が聞こえてくる。 蝿は縦横無尽に部屋を飛び回った後、彼の顔の周りを1周して、そうしてカエルの上空を飛び始めた。カエルは鈍い目で蝿を見つめていた。彼はカエルのその濁った瞳を見つめた。やはり、このカエルをあまり好かないな、と彼は思った。カエルは焦げ茶色の身体から真っ赤な細長い舌を伸ばして、蝿を捕まえた。そうして顎をむしゃむしゃ動かす。 彼は目元と口元を歪めて、エルフの方に向き直した。いつのまにかエルフは肩まで毛布をかけて、仰向けで死んだように寝ている。荒い月光が彼女の白い顔と鋭い耳を照らすのを見て、彼は、あぁ、死んだのか、と目を細めた。綺麗に死んでいる。
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