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その時奏は重い足取りでようやく階段を上がり終えた。中に入るのを躊躇っていると僅かに声が漏れ聞こえてきた。
矢野「あの今井だぞ?」
奏は部屋のノブに手をかけたまま動きが止まる。
何?僕の事?
竹内「そりゃ昨年の今頃は存在しか知らなかったけどさ」
矢野「おもしろいから相手してるに決まってるだろ、男同士で気持ちわりぃ。お前も本気で相手すんなよ」
ドクン.......!
やっぱ気持ち悪いと思ってるんだ.......
僕が竹内くんのことが好きだから。
そうだよね、矢野くんにとってはこれまでのキスとかだってただのからかい目的だし、何でもない事なんだ。
手が落ち、キュッと唇に力を入れた。
竹内「なんだそれ、俺は自分の意思で動く。お前ももっと優しくしてやれよ、パシリに使ったりかわいそうだろ」
矢野「かわいそうとか言ってる時点で下に見てるってことだろーが」
竹内「別にそういう意味じゃ」
矢野「違わねーよ、俺もお前もあいつの反応見て面白がってるだけだろ。」
なんか嫌だ.....こんなの聞きたくないっ!
僕なんかの事で2人が言い合いみたいになるなんて。
ガチャッ......
岩のように重いノブをついに回す。竹内はハッとしてドアの方を見た。
竹内「あっ.....今井遅かったね!お腹痛かったりしたの?食べすぎかな?」
さすがに顔が見れなかった。
奏「さっき、サツキから電話来てやっぱり一緒に帰ることになったんだ。あの…来たばっかりで申し訳ないけど」
竹内「え?…そうなんだ」
静寂が地獄だった。
ドクン.....ドクン.....
平常心っ…!
矢野は黙ったままただこっちを見ているだけだった。
奏「じゃあ、あのっ今日はありがとう!」
竹内「あっ今井っ!」
頭を下げ、竹内が立ち上がったと同時にドアを閉めると走って家の門を開けて外へ出た。
どこかで矢野が見ている気がして泣かないようにギュッと堪えた。
僕みたいなのが2人と親しくなろうなんて、そもそもが間違いなんだ.......
今まで通りの僕で竹内くんを遠くで見ているだけがちょうどいい。
それ以上を望もうとするからバチが当たる。
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