✱ ✱ エピローグ ✱ ✱

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ゆるやかな丘一面に、色とりどりの花が植えられて、まるで花の絨毯。 吹き抜ける風にも花の香りが含まれて、思わずうっとりと風景にひたる。 「きれいね」 「はい」 花畑の中を通れる遊歩道を、とくに急がずゆっくりと進む。 丘の幾つかにはそこそこの大木もあり、太い枝に作り付けられているのは手作りのブランコだ。 子供たちのはしゃぐ声が、丘に響き渡る。 空は気持ちよく晴れ渡り、日差しは暖かい。のどかで穏やかで、眠気を誘うほどの、平穏な日々。 歩くたびに、軽いスカートの裾がはためく。ショートブーツは柔らかく軽く、とても足が軽い。 青い空にぽっかり浮かぶ、白い雲。 風でさざめく花たちが、まるでクスクス笑っているかのよう。 子供たちに抱き着かれて、ぐったりしている人物の元へとたどり着く。 つい、笑ってしまうと、じろりと睨まれた。 子供たちがこちらに気付く。 「おねーちゃ!」 「おねちゃ〜」 わらわらと、飛びついてくる子供たちを慌てて受け止めた。まだ五歳くらいの幼い子供たち。 「……みんな、そろそろお家に戻りましょうか」 「えー」 「まだ、あそぶ」 「ぶー」 「ええと」 困っていると、後ろから手が伸びてきて、片腕に子供を抱え上げた。 「こわねーちゃ!」 「わー」 「いーな、いーな」 「帰らないと、おやつが食べられないぞ?」 女性ながら力持ちな彼女も、最近は子供たちのあしらいが分かってきたようだ。 最初はとても、戸惑っていたのに。 「かえるー」 「おやつ」 騒がしい子供たちをうまく誘導し、帰路につく。 「……」 穏やかな眼差しで無邪気な子供たちを見送る彼に、自然と胸を押さえていた。 「……あ、の」 お礼も、謝罪も、たくさんした。でも全然足りない気がするのだ。 この穏やかな、平和な暮らしを……自分が享受しても良いのかと。 それ以上を、望んでもいいのかと。 言葉を探して考え込んでいると、とうとう彼が立ち上がった。もう、戻ってしまうようだ。 相変わらず──まっすぐに人を見る瞳に、吸い込まれそうで。 (……言わ、なきゃ) 何も言わず、何もしなかったから間違えた。でも、もう。 勇気を、振り絞れる。 「わたし……っ、第二夫人でもいいわ!」 風がピタリと止んだ。 ながい長い───沈黙が降りた。 「………………は?」 「返事はいつでもいいからっ、それだけ……っ」 くるりと身をひるがえし、真っ赤になって走り去る姿を、唖然と見送る。 見送ってしまう。 「……いや──……なんで? ……??」 嫌っていたし、殺そうとした相手に、なんでそうなるのかが理解できない。 身動きもできず、彼は長い事、その場に立ち尽くしていた。 ✱ ✱ 終わり ✱ ✱
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