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森が深くなっていくに連れて、道幅が狭まり出した。
気温がわずかに上がったのか、木々や植物の種類も変わってくる。
風もどこか、暖かい。
翼馬のお陰でリュウキとミューレイは快適だ。しかも翼馬は地面からちょっと浮いているので振動もなく、疲れない。
ギルドの色つき達はさすが、体力もあり、ローブが特殊らしく暑そうには見えない。
ワーニは元々暑さに強いのか、平気そうである。
どちらかというと、馬達の方が大変そうだった。
休憩の時に、見かねてキラキラ入の水を与えたら、馬達に懐かれた。
「それが、例の水ですか」
黒蛇が、急に元気になった馬達を見て興味深そうに水の入った桶を覗き込んだ。
その背後で自分の水筒を急いでしまい込むローブの者が二人。……二人?
じっとレテューを見たが、彼は素知らぬ顔で、話の分からないワーニに話題を振る。
「最初の集落まで、あとどのくらいだったか?」
「ア? 明日ニハ着くダロウ……順調ダカラナ」
「やっぱり、鱗族が多いのか?」
「そうだナ……半々カ」
リュウキはスタスタと赤月に近付く。
不自然に固まる青年に手を出すと、観念して水筒を差し出した。レテューが、あっ、と振り向く。
「赤月っ」
「ふーん……この『水』は、買ったの?」
「いや……、値がつけられぬと、譲ってもらった」
ため息をつき、減った分を足して水筒を返すと、きょとりと見返された。まさか、取り上げるとでも思ったのか。
「え……? あ、有難い……」
リュウキは馬達の所に戻る。
顔を寄せてくる馬達を撫でながら、なんとなく面白くなくて少しむっとした。
背後で慌てている気配がする。
「悪ぃ、隠せなくってだな」
「いい。レテューにあげたものだし」
「ナンダ、ケンカか?」
「しーっ、ちょっとあっちに行ってましょうか」
ワーニを黒蛇が離れた所に誘導し、気まずい空気だけが残された。
「リュウキ、怒ったのか?」
「……」
怒ったわけではない。何か気にいらないだけだ。
友人にあげたものを、他人に渡されたと思ったら。
たかが水。と思われたのかと。
「……」
「リュウキ……」
馬にしがみついていると、お花摘みから戻ってきたミューレイが走ってきた。
「ただいまですニャ……にゃっ? リューキ様?」
馬からミューレイにしがみついて、ぎゅっとする。
「あわっ? リューキさまっ?」
「レテューが酷い。慰めて」
「はいニャ……? よしよし?」
ミューレイは慣れない手つきでリュウキの頭を撫でる。ちょっと意味が違うが、気持ちいいので良し。
「おい、悪かった。次からは許可をもらう」
「灰狼ばかりずるいと、強引に譲らせた。謝罪なら私が」
「……? ずるいって」
何がだろう。
「──それは」
言いにくそうなレテューの言葉に割り込み、赤月が続ける。
「精霊の加護や、貴方方の加護まで与えられていて、皆、驚き羨んだのだよ」
「はあ?」
身勝手な話だ。自分達が何をしたのか、もう忘れたとでも言うつもりか。
ムカついて思わず振り向くと、赤月の頭が下にあった。何でか跪いている。
真剣な赤い眼差しに悔恨の色があり、気迫に押し負ける。
「許されない暴挙をしたのだ。罪は一生かかっても償う覚悟がある。だから機会を与えて欲しい──灰狼だけでなく、他の者にも仕える許可を」
意味が分からない。
確かにレテューとばかり遊んでいるが、それは友人だからだ。灰狼だから、ではない──友人を、仕えさせているつもりもない。
対外的には、そう見えないという事か。
離れて様子を伺っている黒蛇の方を見ると、学者然とした表情が消えて、かすかに顔色が悪い。
まるで、リュウキに怯えているような。
ワーニは話が分からないため、腕組みして瞬きを繰り返している。
友人を見れば、肩をすくめられた。
「こいつは元々騎士様だからな、頭かたいし面倒だぞ」
答えになってない。
「……もう、いい。早く行こ」
「休憩終わりだな」
「……」
「赤月、行くぞ」
赤月はなおもリュウキの応えを待っていたが、レテューに肩を叩かれ立ち上がる。
仕方なく馬に乗りながらも、リュウキを気にしているのがバレバレだ。
そんな光景を見せられてしまった方は、当然。
「……王子サマは、随分、エライんデスな……金ランクを跪かセルとか……」
「ワーニ、余計な事は口にしないように」
「ヘイヘイ」
聞こえないように言ったつもりだろうが、風が全て拾ってくる。
「リューキさま、大丈夫ニャ?」
よっぽど顔に出てたのか、ミューレイに心配される始末だ。
微妙な雰囲気のまま、集落目指して出発となった。
それまでは天気が良かったのに、天候が荒れ出した。
翼馬に乗っている限り雨に濡れないし、風の影響も受けないが、他の者は少し進むのが大変そうだった。
やがて、最初の目的地、集落に辿り着く。
細かな雨が降りしきる中、集落からは煙が立ち上っていた。
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