火の鳥と精霊特使団

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早く終わらせて、さっさと帰ろう。 首都の中心らしい、すり鉢状の広場……真ん中に下に降りる穴がぽっかり空いた場所へたどり着き、思ったのはそれだけだった。 兵士達はもう、近付くのも諦めたのか、リュウキを遠巻きにしている。 幅も高さも不揃いな、狭い降り口だ。仕方なく翼馬から降りる。翼を畳み身をかがめ、蒼嵐は風に戻る。 「……ッ、待テッ、ソコは……祭司様ノ許可ガナケレバ……ッ」 適度に住民の目撃者も集まっている。 宇迦がトントンと跳ねるように階段を降りていく。リュウキは迷わずその後に続いた。 地下に、空洞があった。やはり赤錆びた岩石で、ゴツゴツしている。 天然の洞窟になっているのか、内部は迷路のようだった。下に進むに従って、熱気が増していく。 やがて到着したのは、赤い湖と、その真上を交差する橋と、橋の真ん中に祭壇のようなもの。 まず目についたのは鎖で拘束され、橋から吊るされている人族。若い女性のようだが、ぐったりして意識がない。 湖を囲むように槍を持つ、兵士が十人くらい。 そして祭壇前に陣取り、特別そうな民族衣装を身につけた男女の鱗族。 あとは──。 『ピチュッ、ピチュッ? 人間? 違う? 誰か来た?』 祭壇の端にとまる、小さな小鳥……小鳥? が二羽。 リュウキ達の視線は、その鳥に向けられる。 見るからに、怪しい儀式の現場だ。 勝手に踏み込んできたリュウキに気付いた兵士達がまず、敵意を込めて睨んでくる。 「何者ダ……マサカ、人族カ……!?」 「ドウヤッテ入ッタ!?」 「見張リハ……ヒバ様! 」 なにか、儀式をしていたのか、祭壇前の男女が振り向いた。 「宇迦」 (お任せを) 小狐が走っていき、空中を跳ぶ。女性が吊り下げられている鎖を口に咥え、破壊し一気にジャンプする。 器用に空中で巨体化して顕現し、うまく背中に女性を乗せると、対岸にふわりと着地した。 「ナッ……化ケモノカッ?」 「生贄ヲ!」 兵士が半分くらい、宇迦の方に向かっていったが大丈夫だろう。 問題は。 『ピーッ!? 邪魔する? 邪魔する? なんだコイツらっ?』 『ピチュッ? 焼こう?』 祭壇にいた小鳥二羽が、羽ばたいて空中に飛ぶ。小さい上に素早い。目で追っていたら見失いそうだ。 「何者ダ! ココは神聖ナ、ヒトリ様ノ祭壇ジャソ! 」 「ヒトリ様……!」 怒鳴る男と慌てる女の声が洞窟内に響く。 ヒトリ……火鳥の意味だろうか。 『ピチュッピチュッ! なんだこの馬!』 『ピーッ! 来るな! あっち行け!』 子供っぽい声は、小鳥達から聴こえている。一匹を蒼嵐が追い掛けているが、あとちょっとで逃げられる。 もう一匹は追いかけっこから離脱して、いきなりリュウキの方に飛んできた。 「!」 思わず手を上げる。バチンと叩きつける音とともに、小鳥の羽がズルりと外れて、落ちた。 「! ヒトリ様ーッ!」 風の壁に自ら撃墜した形だ。もう一匹も、パクりと蒼嵐に咥えられる。 宇迦の方はと対岸に目を向けて、女性の無事と、倒れている兵士達を確認できた。 兵士達は身動きできないだけで、意識はある。目撃者になってもらわないといけないのだ。 「ア……アア……ッナンテコト」 「ヒトリ様ヲ傷付ケたワね! 狼藉者メ!」 ワナワナと、祭壇にいた女の方が怒りで震える。男の方は、力なく座り込んでいる。 蒼嵐が傍に降りてきたから、リュウキの目の前に小鳥は咥えられたままだ。彼らに翼馬と、仙狐が見えているから、ようやく説明ができる。 『ピチュッピーッ! 捕まった捕まった?』 『早い早い、馬? 馬じゃない? 遊んでくれる?』 小鳥達は別段、怖がることなく、羽をバタバタさせながらも楽しそうだ。 一匹は翼がとれてしまったが……いや、とれた翼の中に、透明な体がある。 「この、鳥もどきの言ってる事、分かるのか?」 一応、聞いてみたが。 「! 分カリマスワ! 私ヲ祭司ニ、朱国ノ王ニナレト!」 女が偉そうに胸を張った。 『ピーッ! トカゲ女、遊んでくれる? 入れて? 火の水に入れて?』 『飛べない、入れて?』 地面でじたばたする小鳥は、赤い湖の方に行きたそうだ。熱気が凄いから、あれは水などではなく。 (火の水とは……珍しい。それを入れてやって下さい) 「燃えないか?」 (大丈夫でしょう) 『ピーッ! 大丈夫? 入れて?』 蒼嵐を見ると、頷き、風で捕まえていた地面の小鳥を、湖の方に投げ込んだ。 ぼしゅっ、と一瞬で溶ける小鳥。 数秒経つと、燃える火の中から元気に飛び出した。翼が生えて。 「ヒトリ様! 早ク、コノ狼藉者達ニ罰ヲ!」 『ピーッ! 戻った? 生まれた?』 『ピチュッ! みんなで遊ぶ? 火の水楽しい!』 「……離してやって」 蒼嵐から解散された小鳥も、自ら火の湖に飛び込む。水ではなく、火で溶けた岩石が細かく外面にくっついているようだ。 その姿が、まるで小鳥のように見えている。 ただ、楽しそうに飛び回る無邪気な小鳥に、女は戸惑いはじめた。 「ヒ、ヒトリ様……!? 何故、ソノ者達ヲ」 何が起きているのか、理解できないのだろう。 蒼嵐に視線で合図を送ってから、説明をする。 「まず、これは鳥じゃなくて、精霊……みたいなモノだ」 風の魔法で、外まで会話が届くように。朱国、首都の全員に、真相が伝わるように。 「火で復活するから、火の精霊だろう。なんて言ってるか……分かるように、する」 「エッ」 女は怯えた表情で、リュウキを見た。その顔から、本当は小鳥と意思疎通ができていない事を、わかっていて……都合よく利用したのだと、知れた。 「お前達、火の精霊か?」 「……ピチュ? わかんない。ピーッは燃えるの、楽しいの、トカゲ女と遊んでたの」 「ピチュッピーッ! 遊ぶ? 」 「ア……ヤメ……ヒトリ様! 早ク狼藉者ヲ!」 「ピチュはピチュ?」 「ピーッはピーッなの? ヒトリ違うの」 リュウキは吐息をつきながら尋ねた。 「この女は祭司とかで、朱国の王なのか?」 「ピチュ? 知らない?」 「ピーッ! トカゲいっぱいいる? みんな同じトカゲ! 遊んで? さいしって何? しゅこ……おー?」 ガタガタと震え口を手で覆い、逃げ場を探して狼狽える。そんな女の事を、兵士達が不安そうに見ている。 「……人族を、火の水に入れさせたのは?」 「ピチュ? トカゲ女が入れた。遊べなかった……残念」 「ピチュピーッ! トカゲ女の代わりに? 復活しなかった、残念。遊んで?」 小鳥達がくるくる飛んでお喋りする。 あとは何を確認しようか。考えていると、兵士の一人がゆらりと立ち上がった。
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