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兵士の眼差しは、憤怒を表しギラついていた。ひっ、と女が悲鳴を上げる。
「……キバ様……マサカ……我々ヲ謀っタのデスか? ヒトリ様ノお告ゲダト、鱗族以外ハ……ッ、生贄ニセヨと……ッ!」
「ア……ア……ッ」
「ソウシナケレバ、朱国ガ滅ブと──アレは全テ、嘘ダト!?」
「チ、違イマスッ! 本当ニ、オ告ゲデ!」
「……」
他の兵士達も、半信半疑といった様子だ。チラリと小鳥達を見れば。
「ピチュ? 言ってない? いけにえ、なにそれ?」
「ピーッ! ほろぶの? トカゲ女達はトカゲにしょわれてる。人間? 関係ない?」
……一応、会話はわかっているのか。怪しいが、このまま、話ができるようにしておけば、多分大丈夫だろう。
脅威がなくなったと判断した宇迦が、女性を背中に背負い、こちらに飛んできた。虫の息だが、かろうじて生きている。膝から下が……酷く焼かれているが、リュウキなら治せる。
遅くなった事を内心謝りながら、綺麗に治した。まだ若い、なかなか綺麗な女性だ。火傷以外に、あちこちに打たれた痕があり、そちらも治す。
キラキラと、暗い洞窟内に金色の粒達が舞って、健やかな呼吸に戻ったのを確認。
リュウキが治療している間に、兵士達は相談したようで、今まで祭司と敬っていた鱗族の女と、祭壇前でうなだれる男を拘束した。
宇迦が再び女性を背負う。他に、生存者はいなかった。
何か聞きたそうな視線が兵士達から飛んでくる。
「アナタ方ハ、一体……?」
これは、きちんと言うべきか。
「……精霊の国、セトレアの特使団だ。普通、精霊は見えない存在だけど……火遊びが過ぎて、いい様に使われた、らしい」
無邪気に飛び回る小鳥達を、悩ましげに彼らは眺めた。
「精霊……デスか……」
「二羽の言葉がココなら聞こえるようにしたから、もう誤解や間違いは、起きないはず」
「……ッ」
ポンと、蒼嵐の首を叩く。
「ちなみに、今までの会話全部、朱国じゅうに聴こえるようにしてたから、ね」
「……!?」
蒼嵐が得意げにいなないた。兵士達はただ驚き、顔を見合わせているが、捕まった女の方はガタガタと震え出した。
放置して、女性だけ運んで外に出ると──。
入り口の周囲を囲むように、住民達が集まっていた。かなりの人数である。
リュウキ達が姿を現すと、どよめきが広がった。
隠れて避難していた人族もいる。
「──ナルカ様!」
意識のない女性の知人が、人をかき分けて駆け寄って来た。
もう兵士達は邪魔をして来ない。鱗族達はきまり悪そうにしている。
あとは、広場の方がどうなったか──。
普段は憩いの場に使われている、首都の広場。
そこには、見世物にでもするかのように、岩にはりつけにされる人族がいた。
だが先程、無事救出されて、治療の最中だった。
広場の周りには、鱗族の兵士達が大勢倒れている。槍を手に、大暴れしたワーニの仕業だ。
風で運ばれた会話のお陰で、あらかた事情は判明した。
首都全域に声を届かせ、真相を明らかにする──確かにこんな離れ業は、精霊でないと無理だろう。
戸惑いと、疑心暗鬼で、遠くから見ているだけの住民達を、ワーニは憎々しげに睨んでいる。
「助けたはいいが、何処へ運ぶ?」
壮年の男性だった。かなり鍛えた体付きをしているので、軍職だろう。それ以外は分からない。
(そっちに行く)
リュウキの声が聞こえ、レテューは顔を上げた。上空を駆けて、翼馬が向かって来て──後ろに同じ大きさの、赤金色の獣が。
「!?」
狐の背中にも、人が乗っていた。意識のない女性と、少し歳上の女性だ。
その、歳かさの女性が地上を見て──叫ぶ。
「将軍!」
ふわりと着地した狐の背中から、慌ててこちらに駆け寄ってくる。岩から降ろされ、鎖も外され、大きな傷も治されているのを確認した彼女は、人目もはばからず泣き出した。
(……あの時の)
意識のない、やつれた顔を遠くから確認し、リュウキはなんともいえない気持ちになった。
白い平凡な男と、赤い鎧の頑強そうな男。
今なら理解できる。
あの空中宮殿に入れるのは、精霊達に敵視されていない者だけ。
だとしたら──。
白の──帝国の、宰相は?
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