火の鳥と精霊特使団

10/13
前へ
/195ページ
次へ
兵士の眼差しは、憤怒を表しギラついていた。ひっ、と女が悲鳴を上げる。 「……キバ様……マサカ……我々ヲ謀っタのデスか? ヒトリ様ノお告ゲダト、鱗族以外ハ……ッ、生贄ニセヨと……ッ!」 「ア……ア……ッ」 「ソウシナケレバ、朱国ガ滅ブと──アレは全テ、嘘ダト!?」 「チ、違イマスッ! 本当ニ、オ告ゲデ!」 「……」 他の兵士達も、半信半疑といった様子だ。チラリと小鳥達を見れば。 「ピチュ? 言ってない? いけにえ、なにそれ?」 「ピーッ! ほろぶの? トカゲ女達はトカゲにしょわれてる。人間? 関係ない?」 ……一応、会話はわかっているのか。怪しいが、このまま、話ができるようにしておけば、多分大丈夫だろう。 脅威がなくなったと判断した宇迦が、女性を背中に背負い、こちらに飛んできた。虫の息だが、かろうじて生きている。膝から下が……酷く焼かれているが、リュウキなら治せる。 遅くなった事を内心謝りながら、綺麗に治した。まだ若い、なかなか綺麗な女性だ。火傷以外に、あちこちに打たれた痕があり、そちらも治す。 キラキラと、暗い洞窟内に金色の粒達が舞って、健やかな呼吸に戻ったのを確認。 リュウキが治療している間に、兵士達は相談したようで、今まで祭司と敬っていた鱗族の女と、祭壇前でうなだれる男を拘束した。 宇迦が再び女性を背負う。他に、生存者はいなかった。 何か聞きたそうな視線が兵士達から飛んでくる。 「アナタ方ハ、一体……?」 これは、きちんと言うべきか。 「……精霊の国、セトレアの特使団だ。普通、精霊は見えない存在だけど……火遊びが過ぎて、いい様に使われた、らしい」 無邪気に飛び回る小鳥達を、悩ましげに彼らは眺めた。 「精霊……デスか……」 「二羽の言葉がココなら聞こえるようにしたから、もう誤解や間違いは、起きないはず」 「……ッ」 ポンと、蒼嵐の首を叩く。 「ちなみに、今までの会話全部、朱国じゅうに聴こえるようにしてたから、ね」 「……!?」 蒼嵐が得意げにいなないた。兵士達はただ驚き、顔を見合わせているが、捕まった女の方はガタガタと震え出した。 放置して、女性だけ運んで外に出ると──。 入り口の周囲を囲むように、住民達が集まっていた。かなりの人数である。 リュウキ達が姿を現すと、どよめきが広がった。 隠れて避難していた人族もいる。 「──ナルカ様!」 意識のない女性の知人が、人をかき分けて駆け寄って来た。 もう兵士達は邪魔をして来ない。鱗族達はきまり悪そうにしている。 あとは、広場の方がどうなったか──。 普段は憩いの場に使われている、首都の広場。 そこには、見世物にでもするかのように、岩にはりつけにされる人族がいた。 だが先程、無事救出されて、治療の最中だった。 広場の周りには、鱗族の兵士達が大勢倒れている。槍を手に、大暴れしたワーニの仕業だ。 風で運ばれた会話のお陰で、あらかた事情は判明した。 首都全域に声を届かせ、真相を明らかにする──確かにこんな離れ業は、精霊でないと無理だろう。 戸惑いと、疑心暗鬼で、遠くから見ているだけの住民達を、ワーニは憎々しげに睨んでいる。 「助けたはいいが、何処へ運ぶ?」 壮年の男性だった。かなり鍛えた体付きをしているので、軍職だろう。それ以外は分からない。 (そっちに行く) リュウキの声が聞こえ、レテューは顔を上げた。上空を駆けて、翼馬が向かって来て──後ろに同じ大きさの、赤金色の獣が。 「!?」 狐の背中にも、人が乗っていた。意識のない女性と、少し歳上の女性だ。 その、歳かさの女性が地上を見て──叫ぶ。 「将軍!」 ふわりと着地した狐の背中から、慌ててこちらに駆け寄ってくる。岩から降ろされ、鎖も外され、大きな傷も治されているのを確認した彼女は、人目もはばからず泣き出した。 (……あの時の) 意識のない、やつれた顔を遠くから確認し、リュウキはなんともいえない気持ちになった。 白い平凡な男と、赤い鎧の頑強そうな男。 今なら理解できる。 あの空中宮殿に入れるのは、精霊達に敵視されていない者だけ。 だとしたら──。 白の──帝国の、宰相は?
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加