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なんとも重い空気の中、おそらく味方だろう者達に、女性達は大事に運ばれていった。
彼女らの知り合いのようだし、リュウキ達に感謝するように頭を下げていたので、任せて大丈夫なはずだ。
あとは、彼らの問題だ。
首都の出入口に向かう。
戸惑いつつも、兵士は門を開けてくれた。
かなり首都から離れてから、ようやく止まって振り返る。
(そういえば、地震は──)
赤錆びた都市全体が見える距離で、何かが気になってじっと眺めた。来る時に、何かが引っかかったのだ。
都市全体を囲む壁か、均一の高さの建物か。頑丈そうな建物は全て二階建てまで。そういえば、街中の木々の色が、外と違うかも知れない。それだけか?
「…………」
奇妙なほど辺りが静まり返った──。
唐突に地面が揺れた。
「!!」
慌てて馬を宥める皆とは別に、動いた景色を把握する。
首都全体が、わずかにズレたのだ。
「ナ──ッ!?」
ワーニが驚愕の声をあげる。
自分の眼を疑う。
頭部から首、首から背中、背中から脚、尻尾に腕と──あまりに巨大すぎるトカゲのような大地に、首都が丸ごと乗っかっていたのだ。
巨大な眼がこちらを視認し、じっと見て、瞬きしていったん閉ざされ、パチりと開く。
「…………」
赤い眼窩がまっすぐこっちを見ている。自分が見られている。
小さくなってミューレイに抱かれていた小狐が、身を起こす。蒼嵐もブルリと震え、身構える。
遅れて皆、身構え。
山のようなその巨体がのっそりと方向転換する様を、唖然と見た。
「……ナ、ナァ……気のセイか……? オレの眼ガオカシクナッタミテーダ……ッ」
乾いた笑いが漏れる。
「偶然ですね、私も歳のせいか……疲れが眼に来たようだ」
「まだ30代だろ……!」
「! 火の属性か。ここだと転移陣は描けない!」
焦っても、事態は変わらない。
「……アレ、生き物か?」
(……ですな。精霊ではないようです。ただ、魔力は喰らう)
宇迦はチラリと全員を見て、尻尾をゆらゆらさせた。心話が全員に聞こえたらしく、ギョッと小狐に視線が集まる。
(ここにいる全員、上等な魔力持ちゆえ、食欲を刺激したようで)
最悪だ。
ズシン……ッ。
「──!!」
緩慢な動作でも、伏せた体躯のまま正面に向き合ったトカゲ──は、四肢に何やら力を溜めて。
巨大な口をがはりと開くと餌を狙うように突っ込んできた。
散開する。
蒼嵐は上空に逃れ、右側に退避。
山が襲ってくるようなものだ。圧迫感が半端じゃない。あんなに動いて、その上に乗っかっている住民は──と他を気にかけている場合ではなかった。
大地が揺れ、土砂が飛び、木々がなぎ倒され、土埃がもうもうと立つ。
トカゲの頭部ばかり振り返って見ていたら、尻尾が降ってきた。
「!」
「危なっ」
すんでのところで下にくぐり抜け、次は脚が追ってくる。巨大な割に動きが素早いし、大きすぎて壁が迫ってくるとしか。
「……ッ、行ってきますニャ!」
ミューレイが飛び降りる。止める間もなく。空中で獣化し、翼を生やす。トカゲの目の前を邪魔するように飛び回り、注意を引き付けた。
ギョロギョロと巨大な眼が動く。
宇迦も巨大化して、トカゲの頭部に降り立った。狙いは眼だ。
トカゲの脚に黒いヒモが巻き付いたが、数秒と持たず千切れ、赤い霧はゴツゴツした表層に吸い込まれる。
馬を諦め距離を取っても、半歩ですぐに追いつかれるため、回避に偏る。
ワーニの槍は折れた。規模が桁違いすぎて、かすっただけで簡単に吹き飛ばされる。
空中でワーニを受け止め、距離を開けて振り返ったレテューの目の前に、赤い爪が迫る。
「……ッッ」
咄嗟に片手で鎌を構えたが、さすがに耐え切れず弾かれた。
「悪イ!」
「やべぇ、曲がった!」
ハラハラして成り行きを見守って、でも次の瞬間にはこっちに攻撃が来る。
蒼嵐が風で防御しながら上手く避けるが、やはり相手がデカすぎて距離感が狂う。避けたつもりがわずかにかすった。一瞬、蒼嵐がひるみ、その隙を狙ってか舌が伸びてきた──蒼嵐の片翼が絡め取られ、開いた口の中に──。
「リューキ様!!」
流れる視界で、止めようと突っ込んできたミューレイが赤い爪にグサリと刺され。
獣化が解け、口から血を流し、それでもこちらに手を伸ばす必死な姿が目に焼き付き。
( )
音が全て消えた。
リュウキの姿も。
(……神子!!)
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