火の鳥と精霊特使団

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「時間が──わかたれる、かも。知れないの」 「時間?」 「生きて、いられる時」 「…………」 「わたしたちと、彼らは、違う。違ってしまう。こちらに馴染んでしまったから、もう選べないの」 優しく頭を撫でられながら。いつかの美しい星空を見上げながら、切々と寂寞を教えられる。 「大事に慈しみなさい。好きなものすべて」 「……」 「こぼれ落ちないように──そのためなら……いいわ」 吐息とともに刻まれる。 「ふるいなさい」 ひたすら眩しい。 金色の光が爆発して辺り一面なにも見えない。なにも聞こえない。 魔力とも違う。もっと神聖な絶対的な──熱量を含んだ何か。 見て、確かめたかった。無理やり目蓋を持ち上げる。 「──」 トカゲは大口を開けたまま固まっている。いや、気絶したようだ。白目を向いている。 淡く金色の光の奔流が薄まって、ゆっくりと下に降りていく。うっすらと人影が確認できるが。 慌ててワーニが駆け寄って行ったので、我に返ってその後に続く。 近くまでたどり着き、だが迂闊に声がかけられない。 腕の中に抱き上げた黒耳の少女を、とても不安そうに見下ろしていたから。傷はとっくに塞いだようなのに。 狐が飛び降りてきて近くに着地、一瞬で小さくなる。翼馬も案ずるように寄り添う。まるで、慰めるように。 「……」 黒蛇も、赤月も近くまで来たが、雰囲気に呑まれ言葉がなかなか出てこない。 そして……何より。 「──リュウキ?」 本当に、本人だろうか、迷う。 「……ん」 良かった、声は本人だ。安堵してレテューは訊ねる。 「その格好は?」 「……ん? ……?? え───はぁっ!?」 本人が一番驚き、動揺している。 髪が一気に伸びて、地面についている。しかも半分は金色だ。 髪だけでなく瞳の色も金色に変わっている。 あと、背中に一対の翼が生えていた。眩しいくらい金色に輝き、輝きが光となってこぼれていくさまは……。 「何コレっ!?」 (……力を解放した余波かと。まずは落ち着かれませ) 小狐に諭され、慌てている様子はいつものリュウキだ。 慌てながらも、ミューレイを翼馬の背中に預け、うんうん唸って翼を消した。赤月が勿体無さそうに見ているが、見ないフリをした。 「髪どーしよ」 (とりあえず、結い上げましょう) 「切れば…」 「駄目です勿体無い。いや、切るならいただきます」 黒蛇がいきなり突進しかけたのを肩を掴んで止める。リュウキが嫌そうに彼を見た。 「……ハァ……モウ、何に驚ケバイーノヤラ……。ア、所で、アノ、トカゲ?ハ」 皆が頭上をうかがった。 白目を見せたまま微動だにしない。 「体内に電撃ぶち込んだからしばらく大丈夫なはず」 「……デン?」 (話は後にされて。とりあえずは退散致しましょう) フリフリと三本の尻尾を揺らし、狐が翼馬に飛び乗る。 「……そうだな」 これ以上、厄介事は、さすがに勘弁だ。 馬達は、一頭以外は運良く逃げて無事だった。ワーニは歩くと言って譲り、時折背後を振り向きながら──トカゲが見えなくなるまで──悪い夢でも見たんじゃないかと呟いた。 リュウキ達が後にしてきた朱国、首都では──。 突然、大地ごと激しく揺れ動き、かなりの被害が発生していた。 天罰なのではと多勢が嘆き、恐れ、鱗族達は、精霊の小鳥達に訊ねたが……。 「ピチュッ! トカゲお腹空いてた、でも食べれなかった」 「ピーッ! びりっとした? びり?」 全く要領を得なかったため、彼らに頼る習慣から離れていく。 住民達は、誰も真実を知る事なく──長く、大トカゲの背中で暮らしていくのだった。
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