火の鳥と精霊特使団

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豊かで美しい森の奥深く、大陸のほぼ中央にそびえる、雲より高い霊峰。 そのふもとの、上空。 水の結界に丸く護られた、白亜の宮殿がある。 精霊や神獣が住まう聖域は、空気からして神聖なのだ。普通なら、ただの人間には踏み込めない領域。 円を描く外縁の縁に、一頭の翼馬が降り立つ。 事前に気配を察知していたのか、出迎えがあった。 エーリリテひとり。 「……っ」 その若く美しい母親がただひとりでいる事に、ひどく動揺してしまう。 翼馬はいつものように前脚を折り、背中から降りない訳にもいかず、仕方なく降りた。 静かすぎた。 強い戸惑いに動けないでいると、きょろきょろしていたミューレイが、そっとリュウキの手を引く。 母親はそれを、ただ微笑んで見ている。 側まで歩み寄る。いつものように白い腕が、そっとリュウキの頭を抱きしめた。 「お帰りなさい」 「……っ、ただいま」 ホッとしたミューレイにも、エーリリテは視線を向けた。 「ミューちゃんもお帰りなさい。大変だったみたいね」 「たっ、ただいまなのですニャ! たいへん……? 大変でしたニャ……?」 咄嗟に思い出すのは、食べた魚の美味しさだった。 数時間かけて帰路についたら、さっぱり大変な部分を忘れてしまった。 なぜならずっとリュウキと一緒にいたから。 ずっとドキドキしていて、何しに行ったかもちょっと記憶が怪しい。 「……何か、作る。防御的な」 「そうね……材料ならあるから、いらっしゃい」 いつものように背中を押され、そのままエーリリテの自室の方へ、誘導される。 背後で、少年に戻った宇迦と、青年になった蒼嵐が、察したように付き従う。 尋ねたら、父親は仕事で単身出かけたらしい。 ようやく、心底安堵して母親の部屋に着き、衣装用の裁縫室に踏み込み。 「……で、随分のびたわね、髪」 「あ」 「そーなんですニャ! びっくりですニャ! キラキラして綺麗なのですニャ……」 「ミューちゃんも長いの好き? そうよね、ちょっといつもと違うのが似合いそうよね」 「え」 「うふふ」 「ニャン」 たらたらと冷や汗が出てきて、助けを求めて振り返ったが、蒼嵐も宇迦も視線を逸らした。 「あちらからカメラも持ってきたのよ」 「リューキ様のアルバム、私も欲しいですニャ!」 「えーと……帰ってきたばっかだし、休みたいかな……。な? 宇迦!」 「我は大丈夫ですぞ。御夫人の趣味くらいお付き合い遊ばれては」 「……! か、母さん、どーせなら宇迦の衣装を選んだら?」 「あら? そうね。和装も逆に素敵ね……三人とも、着替えましょうか」 「ぬ。……」 「えっ──? 私は衣装は、この1着で充分──」 「逃げるな宇迦っ」 結局、その後、五時間拘束されたのだった。
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