プロローグ

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ホコリがうっすらと積もるその、書籍だらけの部屋で、奥の窓枠に腰掛け外を眺めるのは年齢不詳の人物。 何にも興味が無さそうに、楽しいことすら忘れてしまったように、ただ無為に外の景色を眺める。 憂いなその瞳がふと、動く。 窓下の上り坂をゆっくりと歩いて通るのは、まだ十代の少女。 真新しい学生服に、上からマントを身に付けて──どうやら新入生らしい。 肩までの金の髪、スラリとした肢体、物憂げに行き先を見詰める様子は、清純で麗しい。 中性的な美少女に、周りを歩く生徒達も、目を奪われている。 「──そうか……入学日、だったな」 それにしても、いったいなぜ目を、奪われたのか。 美しい者など、大勢いるのに。 窓枠にコツリと爪先を当て、傍観者は考えた。 やがて、気付く。 紫苑色の瞳に、久方ぶりに興味の色が浮く。 「面白い……」 遊ぶにはちょうど良い。 うっすらと微笑みながら、傍観者は本の部屋を後にした。
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