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聞いてないぞ。
怪訝な表情をした俺の顔を見た誠の目がほんの一瞬動いた。
「いや、あれは会ったとは言わないかな。この間、国分寺の駅前の繁華街でぶつかった女の子がいてね。僕は、その子がつけてたキーホルダーでひよりちゃんだって分かったんだけど……彼女は僕って分からなかったんだね」
気のせいか? 誠の目に電光石火の速さで動揺が走り抜けたような気がした。まさかな。
「人違い、じゃないのか?」
誠はもう、いつもの澄ました表情に戻っている。升の中の酒に視線を落として、伏し目がちになったまま静かに言った。
「そっか、そうだね。人違いだったのかもしれないね」
まさかな。
敵は、ケンさんだけで充分だからな。
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