小説家さんと探しもの

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 誰だろう。  着信音を聞きながら画面を確認するとそこには大河さんと名前が出ていて、頭に浮かんだのは彼が同じ年頃の女性と一緒に歩いているところ。  電話がかかってきたなら、そのことを問いかけるべきだろうか。  でも彼はまだ若いし、私がそういうことに疎すぎるせいでよく分からないだけで、互いにただの友達という感覚なのかもしれないし。  と、とにかく電話に出ないと。  考え込んでしまってから慌てて通話ボタンを押そうとするが間違えて通話を切るボタンを押してしまう。 「あ、」  どう、しよう。こちらからかけ直すべきだろうか。  通常の画面に戻ったスマホを見つめて固まっていると再び大河さんから着信が入る。 「もしもし」  今度は間違えないよう気をつけて通話ボタンを押すとスピーカーの向こうから彼の声が聞こえてくる。 『フミさん、今からそっち行ってもいい?』 「え、えぇと」  訊かれたのはうちに来てもいいか。ということなのに頭に浮かんだのは気になっていることを彼に訊こうか。ということ。 『忙しい?』 「あ、あぁ、はい。その、仕事で」  仕事で?仕事でってなに?  反射的に返事をしてしまったせいで自分が何を言おうとしたのかが分からず混乱していると 『出かけるの?』  と短い問いかけが返ってくる。  それは、そうだよなぁ。彼が家に来ていようと構わず作業をしているのが当たり前だったのに、仕事があるからと断ったら執筆以外の仕事があるのだと考えるのがふつうだろう。 「え、えぇ。その、取材に」  行く先生も多いと聞くし。  今更ウソだとは言えず、ウソにウソを重ねているといつも通りのそっか。という返事が聞こえてきて罪悪感に襲われる。 「ごめんなさい」 『ううん。突然、言うのが悪い』 「それじゃあ」 『それよりフミさん、言うことない?』  そこで通話が終わるだろうと別れの挨拶を口にしようとするが、意味を察しかねる質問をされてしばらく無言になってしまう。
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