前編

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 予想通り浮橋は不自由な男の体には興味が失せたらしく、それ以来深山に入れようとしてこない。ただ、入れることをしないだけで、ことあるごとに深山の体には触れたがった。  深山は細い。体質もあって、どれだけ食べても太らない。そのせいで骨と皮が目立つ。正直、抱き心地は最悪レベルだ。この貧相な体がコンプレックスでもある深山は、そういう雰囲気になっても自分の服を脱がずに浮橋だけをイカせることに務めた。  浮橋はひどく不満そうだった。それはそうだろう。入れられない。抱き心地は悪い。触っても面白くない。この三拍子だ。  だが深山とて何もかもが初めてで、これ以上どうすればいいのか分からなかった。  事情を知る友人に相談すると、悲しそうな顔で別れを勧められた。それからすぐに、彼から浮橋が二股をかけていると報せが入った。美女と二人で並んでいる写真付きだ。疑いは抱かなかった。無理もない、そう理解ができた。  深山はその日から鏡の前で笑顔の練習をした。フラれる準備だ。それが上手くいくようになって、ひと月。一向にフラれる気配がない。  また友人に相談すると、今度は苦笑されてしまった。深山に負い目があるからだと諭された。  不思議だった。負い目も何も、彼女ためにさっさとこんな歪な関係は断つべきだ。世間的に真っ当なのは深山の方ではないのだから、それをしない浮橋が分からなかった。     
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