前編

18/32
前へ
/59ページ
次へ
「?」 「……。いい、シャワー浴びてくる。話があるから、先にベッドで休んでて。寝るなよ?」  少し怒った背中がいつも通りで、深山は睫毛を伏せる。本当に終わってしまうのだと、そう思った。  少しその場で休んだ後、体液の後始末をしようと思いタオルを探した。深山が着ていたガウンしかなかったので、浮橋が向かったバスルームへタオルを取りに足を向ける。  そこで聞こえてきたのは、中で誰かと電話で話している浮橋の声だった。シャワーでなく先に入れておいた湯舟に浸かっているらしく、声が反響して聞こえてきた。 「だから、そう言ってるだろ? ちゃんと、やったって。入れてねーよ。してませんー」  響く浮橋の声。慌ててタオルだけを取って去ろうとした深山の耳に、苛立った声が届く。思わず足を止めて、すりガラスの向こう側を見た。 「当たり前だろ? 何を好き好んで……。俺だって我慢して、どうにかこうにかやり遂げたんだよ。それよか、部屋はどうなった? 一緒に住む部屋」  電話の相手が例の彼女だと、すぐに分かった。  タオルを掴んだ指先が、震え出す。  俯いたまま動けずにいると、浮橋は深山の存在に気付く様子もなく話を続けた。     
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2628人が本棚に入れています
本棚に追加