前編

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「金なら俺が用意するって。それは大丈夫。あいつ、なんも知らねーし。あ? だから、金なら大丈夫だって言ってんだろ? 話? は、……まだ言ってない。これから話す」  一気に、血の気が引く。  金、と聞いて思い当たるものがあった。深山との行為を録画したがった、予想通りの理由だ。  きつく眉根を寄せ、口を押えてその場を後にする。  話が別れ話なのは検討がついていたが、深山との動画を金に換えるつもりだったとは。彼女と一緒に住む部屋の資金にするつもりだったのか。  浮橋ならそんなことをしないと、信じていた。だが、そうではなかったらしい。  嫌な音を立て続ける心臓に、堪えきれず涙が溢れる。歯を食いしばって服を着替え、鞄の中に入れてあったノートを破ると震える手でペンを走らせた。 【浮橋へ  一年間、俺と付き合ってくれて本当にありがとう。  彼女と仲良くね。動画はごめん。SDは抜いてありました。新しい生活、応援しています。少ないけど、同棲の足しにしてくだささい。どうぞ、お元気で。さようなら。 深山】  綴った手紙にSDカードを添えて、ベッドの上に置く。そこに、一年間男の自分と付き合ってくれた浮橋の謝礼を置いた。  こんなことは間違っていると分かっていたが、こうした方が踏ん切りがついた。  涙を拭い背を向けて、部屋の代金を払ってホテルを出る。一人闇夜に紛れて駅へ向かった。 「ミヤ」     
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