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ホテルの簡易キッチンで念入りに煮沸消毒されてきた道具は、真剣な顔をして道具をチェックしている浮橋の前で今か今かと登場を待ち構えていた。
浮橋は今日やたらと清潔であることに拘っていて、髭を剃り直したり洗って乾かした髪をハーフアップにしたりと余念がない。
小皿に消毒ジェルを移し、自身の爪を睨むようにして何度も確認すると、ようやく医療用のゴム手袋を開封した。
パチン、とゴム手袋を嵌め終えた彼がこちらに向けて微笑む。
ズラリ並べられた見たこともない道具を前に、深山は素直に息を呑んだ。
「あ、あのさ」
「ん?」
「痛いのは、嫌だ。あと、やっぱ……怖い」
素直に口にした途端、恐怖が増した気がした。
道具を不安げに眺めていた深山に、影が差す。正面を向けば、優しい顔をした浮橋がキスを落してきた。
繰り返し寄越される、啄むだけの口づけ。キスの合間に紡がれる甘い睦言は、深山の体を少しずつ弛緩させてゆく。
「目、瞑ってていいから。嫌だったら、ちゃんとやめる」
「本当に……?」
「ホント」
ならば、と小さくほんの僅かに顎を引く。
嬉しそうに目を細める浮橋としっかり唇を重ね、深山は覚悟を決めた。自らガウンの紐を解いて緩め、体の力を抜いて天井を仰ぐ。
(う)
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