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三十代半ばのマスターはなんでも人生経験だと言って、手際よくギムレットを作り始める。
それをボンヤリ眺めながら深山が待っていると、店の扉が荒々しく開いた。
ざわつく店内。深山も何気なく後ろを振り返り、瞠若した。思わず椅子から立ち上がってしまう。
何故、ここにいるのか。
どうやって、ここまで来たのか。
肩で息をしながら店内を見回し、深山を見つけなるなり駆け寄ってきた男に困惑する。
髪は濡れたまま荷物を両手に抱え、二月だというのに上着も羽織っていない。まさか深山を追いかけてきたのか、その理由が分からなかった。
「……なんで」
呟いた声は掠れて、震えていた。
「なんだよ、これ」
差し出されたのは、大きな手の中でクシャクシャになった深山の手紙と数枚の一万円札だ。
「なんなんだって、訊いてる」
知り合って初めて耳にするような、地を這う声。怒っているのは目に見えて明らかで、深山は素直に怯えた。
百六十センチしかない平均以下の深山と百八十後半の浮橋は、深山の細さと浮橋の屈強さが実際よりもその差を大きく見せている。
「ごめん……足りなかった? でも、それ以上は」
「ふざけんなよ、お前」
「でもっ、それ以上は俺も払えな」
「金なんて払ってんじゃねーよッ!」
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