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深山の台詞を遮って、罵声にも近い怒号が店内に響いた。深山は小さな体を大きくビクつかせ、目の前の浮橋を見上げる。
カウンターに叩きつけられる手紙と万札。
「ちょーと。喧嘩なら外でやって頂戴。ここは美味しく酒を飲むところよ」
ギムレットをカウンターに置いて諭すマスターに、浮橋がやるせなさそうに濡れた前髪をかき上げた。
大きく息を吐き出して、浮橋が口を開く。深山は金を払うなと怒鳴られて、頭がこんがらがった。何をそんなに怒っているのか、本気で分からない。
「……だいたい、彼女ってなんだよ。俺と付き合ってんのは、お前だろ?」
まだ白を切るつもりなのか、深山は首を横に振る。深山の知る浮橋はこんな往生際の悪い男ではなかった。一体どうしてしまったのか、心底悲しかった。
深山は浮橋を見つめ、千鳥から送られてきた写真を見せた。スマートフォンの液晶画面。その向こうで、二人で楽しそうに並んでいるショットだ。千鳥から送られてきたものである。
写真を見せた途端、浮橋が口を噤んだ。深山からスマートフォンを取り、きつく柳眉をひそめて何故か傍にいた千鳥を睨んだ。
「……チィ。説明しろ」
千鳥は答えない。
表情らしい表情はなく、美しい顔が真っ直ぐに浮橋でなく深山を見ていた。温もりの欠片もない視線に、違和感を覚える。
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