前編

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「分かってるよ。ミヤは気持ちを伝えて、僕はそうしなかった。それだけだ。でも、やるせないだろ……? 意地悪したくなった。これで壊れるなら、その程度だったてことだ」  千鳥が立ち上がって、深山の前に立った。十センチ以上上にある彼の顔。綺麗だが、悲しみに満ちたその美貌。 「おめでとう。ミヤの勝ちだよ。でも、覚えておいて。あいつは、本当にモテるから。ミヤだって知ってるだろ? 女も男も、あいつを放っておかない」  そう忠告して去って行く千鳥に、深山は何も言えなかった。  今は何を言っても無駄であったし、深山がかけていい言葉は深山がかけたい言葉とは違っていた。千鳥のことは嫌いになれない。まだ友達でいたい。しかし、それを千鳥は望まない。両方を得ることなんて、虫が良すぎる。  千鳥が去って行って少し経った頃、浮橋が出てきた。千鳥がいないことに気付いて舌を打つ。  だがすぐに項垂れている深山の前に立って、大丈夫かと優しい声をかけてきた。  浮橋を見た。この男がモテるのは、深山だって充分知っている。気が回って優しくて、豪快で強引で、なのに本当は繊細な部分もあって、時折見せる不安げな顔が可愛い。  一歩、浮橋から体を引いた。この、太陽のような男を独り占めしている人間が、深山のような同性でいいはずがない。     
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