「俺を捨てないでください」

前編

　天井から吊るされている、高性能カメラが目に入った。視線だけを動かして確認すると、奥にある壁掛けのモニターに深山の姿がしっかりと映し出されている。忘れていたが、コレもあったのだ。

　このラブホテル、撮影環境に特化していることで大変有名な場所だ。ＡＶ業界ご用達の、筋金入りである。内装も綺麗で人気が高く、今日このホテルに連れて来られた時は心の底から戸惑った。

　今更こんな平凡な顔と体を撮影したがるとは思わなかったので、提案された時は身構えた。ゲイたちが集まる馴染みのバーで、その手の被害を耳にしていたのもある。付き合っているうちはいい。だが別れた後に動画や写真をＳＮＳで晒される、いわゆるリベンジポルノはゲイの世界でも問題になっていた。

（……ＳＤ抜いたの、気付かれてないよな？）

　実は、こっそりＳＤカードを引き抜いておいた。

　元々ゲイではない浮橋だから、別れた深山の動画や写真なんて取っておかないだろう。けれど、念には念を入れておくべきだと思った。

　だいたい、こんなものを撮って何に使うのか分からない。いわゆるゲイビの世界に格安で売る可能性もゼロではないので、自衛は必要だ。

　浮橋がそんなことをするとは思いたくはないが、撮影をする理由がそのくらいしか見当たらなかった。