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ワガママは対等でいるから、言えるものだ。付き合ってもらっているとの意識でいる深山に、ワガママを言う選択肢は最初からない。
「それだけじゃない。お前は、俺にくっつきたがらなかった。それが不思議で、試しにキスしてみよかと思って顔近づけたら、顔色変えて俺から逃げた。無理しなくていいって、そう笑って……」
覚えている。初めてキスをされそうになったのが、大学の構内だった。
確かに周囲に人はいなかったが、どこで誰が見ているか分からない。浮橋に変な噂が立つのを恐れる一心で、逃げた。
「……焦った。本当に、ヤバイと思った。急にどうしていいか分かんなくなって、とりあえずデートに誘った。酔った時に告白してきたから、素直になってくれると思って酒も飲ませた。酔ってるとこに付け込んで部屋に連れ込んだのは、無理してんじゃねーって分かって欲しかったからだ。だけど、勝手分かんないし、すげぇ痛そうだし……。お前、途中で帰るし」
まさか浮橋がそんなことを考えていたなんて思わなくて、深山は愕然として彼を見つめる。
辛そうな顔が彼の葛藤を如実に表していて、胸の奥が不思議な音を立てて鳴った。
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