前編

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「姉貴が言った通りになるんじゃないかって、怖くなった。お前が俺じゃない奴に笑いかけて、嬉しそうな顔すんの想像するだけで、腹が立った。俺じゃなかったらキスさせんのかなとか、ちゃんと甘えてくれんのかなとか、色々考えて……震えた。どうにか挽回したかった。今度はちゃんと俺なりに勉強もして誘ったのに、お前はもう……俺に触らせてくれなかった」  ひどく辛そうな声に、胃が軋む。  そんな風に悩ませるために深山が必死だったわけじゃない。浮橋に、嫌われたくなかっただけだ。彼はゲイではないから、自分から触れると嫌がると思った。 「俺のことイカせるばっかで。俺が触ろうとすると、いっつもそんなことしなくていいって笑って……。俺だって、お前のこと触りたいのに。でも、最初が最初だったから、無理強いは駄目だって我慢した。なのに、お前は……帰るなってどんだけ頼んでも、俺がシャワー浴びてる間にいなくなるんだ」  視界が歪む。利き手で左胸のシャツを鷲塚む。背を、丸める。  自分の過ちを知り、独りよがりの恋であったことも、知った。     
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