前編

4/32
前へ
/59ページ
次へ
 浮橋にとっては、大学生活も残り一ヶ月。そろそろ彼を開放する時期だ。彼も頃合いをみているようで、最近は付き合いが悪く連絡も取れないことが多い。  その分、深山に内緒で女性と会っている。唯一関係を知る友人から苦々しい顔で二股をかけられていると忠告を受けた。  彼女の写真も送られてきた。浮橋と並んで歩いてもなんら遜色のない、綺麗な女性だった。どちらが本命かだなんて、考えるまでもない。 (今日で……終わり)   ちゃんと、覚悟を決めてここに来た。  ここを出る時が、浮橋との別れだ。  まだ彼が大好きだし心底辛いが、二股云々関係なく自分は彼から離れるべきなのだろうと痛感している。  浮橋は、とにかくモテる。男女関係なく方々から。  クセの強い少し長めの黒髪に、誰もが手放しで絶賛する凛々しい顔。百八十七センチもある体は雄々しく引き締まり、腰の位置も高い。  自他ともに認める自信家で意識も高く、それでいて実力も伴っているから嫌味はない。むしろそれが彼を輝かせていて、周りにはいつも人が集まっていた。  卒業後は都内の大手企業に就職も決まっている。式では総代を務める予定だ。  そんな浮橋が何故か高校時代から傍に置いたのが、深山だった。口の悪い連中からは、引き立て役のミヤちゃん、と呼ばれてしょっちゅう笑われていた。     
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2614人が本棚に入れています
本棚に追加