後編

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「ミヤさ、お前純粋過ぎ。独占欲のまったくない恋愛があるかよ。お前が抱え込んでるもんも普通に誰だって持ってる。自分を好きな人間は、案外多くない。俺は俺のこと大好きだけど、そういうのって育った環境にもよるだろ? みんな、色んなもん抱えて生きてるよ」  浮橋の言葉に、深山は戸惑う。自分を純粋だなんて思ったことは一度もない。けれど、腹の底で燻る黒い感情は、本当に誰もが持っているものなのだろうか。自分がひどく卑しい気がして辛かったが、これが普通なのか。  掴まれた腕を引かれ、抱きしめられる。耳に聞こえてくる心音が、やけに早い。まさか緊張しているのか。あの浮橋が。 「なぁ、頼むからさ。別れるとか、言うなよ。好きなんだ。ホントに惚れてる。……ミヤが離れてくかもしれないって、想像するだけで胃が痛い」  これ以上なくきつく抱きしめられて、息が止まる。苦しかったが、それ以上に浮橋の必死さが肌越しに分かって不覚にも視界が潤んだ。  正面切って必要とされたことなんて、一度もないから。こんな気持ちは初めて知るものだ。それと同時に、伝わってくる浮橋の腕があまりに温かくて、安心できて。悔しいが色々なものを痛感させられた。  たくさん理由を付けてみた。色んな言い訳をならべてもみた。だけど、結局今でも彼のことが好きなままだ。こればかりは、簡単に覆らない。  無謀な恋であったはずなのに、こんなことが起こって本当にいいのか。 (……俺、は)  変われるだろうか。こんな自分でも。     
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