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浮橋を見る。ゴム手袋を処理して、消毒ジェルで手指を消毒している彼。
「浮橋は、さ……その、こういうの、誰かとシタことあるの……?」
そう尋ねずにはいられぬほどに、やけに手慣れていた。高校時代から知っているが、男を相手にするのは深山が初めてだと思っていた。だが、違っていたのかもしれない。深山が知らないだけで。
「……どういう、意味?」
浮橋が手を止めて、こちらを向いた。
予想以上に低い、浮橋の声音。
「いや……、なんか慣れてるから」
「ミヤが初めてだよ。男のものなんか触れるかよ」
「……俺も男なんだけど」
「ミヤは特別だろ」
苦い笑みを浮かべて視線を落とす。特別だと言われても喜べない。この後に控えるサヨナラは、揺るぎないものだ。
それに、生粋のゲイである自分と彼では、住む世界が違うのだと改めて思い知った。男のものに触れることを嫌悪する彼と、恋愛対象が男だけの深山とは何もかもが違う。
「ミヤ、動かすぞ」
「え?」
訊き返すのが早いか、カテーテルを上下されるのが早いか。深山は無防備なところに刺激を受けて、一瞬で視界を潤ませた。
ゾクゾクとした感覚が体を駆け抜ける。
ジェルのお陰で痛みはない。ないが、奥にある何かがカテーテルに触れる度、感じたことのない感覚が全身に広がった。
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